東西の古美術に囲まれて、気ままにお散歩してみませんか?
東京都・六本木の泉屋博古館東京がリニューアルオープンしてから、早くも半年。
再開記念展のパート3では、住友家が蒐集してきた古美術とお目にかかれます。
本展は京都の「泉屋博古館」で所蔵している作品を、東京で見られるまたとない機会でもあります。
東京館の所蔵品もいくつか加わり、東西のさまざまな美術品を楽しめるのが魅力!
9月の頭、秋の気配を感じる泉ガーデンを歩いて内覧会に訪れました。
本記事で会場の様子や見どころをご紹介します。
『リニューアルオープン記念展Ⅲ 古美術逍遙―東洋へのまなざし』の概要
2022年3月の泉屋博古館東京リニューアルオープンを記念する、館蔵名品展の第3弾。
古くより人々の“まなざし”を集めてきた東洋の美術品を、国宝2件・重要文化財10件も含めて一挙にご紹介します。
住友家に蒐集された美術品はジャンルが幅広く、年代も多岐にわたるもの。
コレクションを生み出した住友家15代当主・春翠(しゅんすい)やその息子・寛一(かんいち)を「数寄者(すきしゃ:風流な人・茶の湯を好む人)」と評し、彼らが美術品を見出した“まなざし”にも迫ります。
・日本や朝鮮・中国のさまざまな古美術を見て楽しみたい!
・落ち着ける雰囲気の展示室でゆったりとくつろぎたい!
・多彩なラーニングプログラムやイベントに参加してみたい!
「逍遙(stroll through)」とは、「自由気ままにあちこち歩き回ること、散策すること」を意味します。
※本展では「逍遥」ではなく「逍遙」の字を使っています。
この展覧会では、どの美術品も主役級。
堂々たる古美術たちが競演する華やかなフライヤーは、「どれも全部見せたい!」というキュレーターの意欲が詰まっているのだとか。
数寄者たちが集めた東洋の古美術コレクションの中を、ぶらりと散歩するような展覧会。
展示室内には順路があるものの、自由に移動しやすい泉屋博古館東京ではまさに“お散歩気分”を味わえます。
住友家のコレクションを保存する泉屋博古館は、京都・鹿ヶ谷の「泉屋博古館」と東京・六本木の「泉屋博古館東京」の2拠点を持っています。
本展を担当されたのは、京都館で学芸員をしている方。東西でタッグを組んで企画しているのも、今回のおもしろいところです。
今回お披露目している古美術のジャンルは多種多様。さらに、紀元前の前漢時代から江戸時代までと年代も幅広いのが魅力です。
各章のネーミングも私は気に入りました!
- 第1章 中国絵画 — 気は熟した
- 第2章 仏教美術 — かたちの彼岸
- 第3章 日本絵画 — 数寄あらば
- 第4章 文房具と煎茶 — 清風は吹く
仏教美術にしても日本絵画にしても、このコレクションを通じて美術史を通観できるものではありません。
けれども、それこそが私立美術館の魅力。学術的な一貫性よりも、コレクターの審美眼が光るラインナップなのです。
まさに、泉屋博古館東京らしい展覧会と言えますね。
日本絵画のジャンルは、古筆・水墨・近世絵画とバラエティ豊かです。
これらは、実際に住友家の邸宅に飾られていたもの。壮麗なアートで彩られたおもてなしの場は、財閥の風格を感じさせるにはぴったりだったのでしょう。
第2展示室にある仏教美術、実は東京館で見られるのはとても貴重。
《線刻仏諸尊鏡像》は精緻に彫られた仏様の美しさがすごい! 鏡面がピカーッと光って見えるように、展示の仕方も工夫されたそうです。作品に合う展示台を京都から持ってきたのだとか!
ベストポジションを探して、いろいろな角度から見てみましょう。
また、今回は担当学芸員の竹嶋さんが“中国絵画がもっとおもしろくなる見方”を教えてくださいました。
その1:絵の中の人物を見てみよう
絵の中に人物が描かれていたら、まずはその人に注目してみましょう。
その人が見ているもの・聞いているものを想像してみると、絵の世界に入り込めます。
たとえば、上の《盧山観瀑図》に描かれる人物は滝を見ていません。
「滝の音に耳を澄ませているのかな?」「滝の水飛沫を含んだ、ひんやりした空気を感じているのかな?」と想像すると、バーチャルリアリティのように絵の世界が立体的に感じられるはず。
一方で、龔賢(きょうけん)の《山水画冊》には人物が描かれていません。人がいないことで「寂しさ」を感じるのではないでしょうか。
その2:図形的に見てみよう
《盧山観瀑図》をもう一度見てみましょう。
岩の傾きに沿って目線を動かすと、荘厳な滝。その上には雲がたなびき、賛(さん:画中に書き込まれた文章のこと)へと注目が移ります。
視線の誘導が上手い絵だとわかりますね。
本展には日本で国宝や重要文化財に指定されている名品が出揃っていますが、朝鮮や中国で作られた美術品もあります。一体なぜでしょうか?
朝鮮由来の「高麗もの」や中国由来の「唐もの」も、日本の数寄者たちは愛好したといいます。
しかし、意外にも本国では王道に乗っていない作品。
それらを「美しい」と感じて評価したところに、日本人の美意識が見てとれます。
住友家のコレクションを築き上げた春翠は、香道や能などに励む風流人だったそうです。
そんな彼が夢中になったのが、煎茶。
煎茶は抹茶ではなく、茶葉を使った茶道のこと。江戸中期以降の大阪を中心に隆盛したといいます。
春翠はたびたび数寄者たちを文房(書斎)に招いて、「煎茶会」を開いていたのだとか。いわゆるサロン文化ですね。
武家社会に浸透した抹茶道とは異なり、文化人たちの間に流行したモダンな茶会。
堅苦しくない一種の遊びであり、文化的愉しみを交歓する場だったと言います。
第4展示室では、その「文房」のアイテムを取り揃えています。
「文房具」と言っていますが、いわゆるステーショナリーのことではありません。
文房に備えられたものを「文房具」と呼んでいたため、茶碗や屏風も文房具として数えられていたのです。
今回は展覧会とタイアップしたイベントが盛り沢山!
リニューアルオープンに伴い新しくできた講堂でおこなわれます。
※受付終了のイベントもございます。ご了承くださいませ。
- 講演会
- 学芸員のスライドトーク
- 煎茶会
- 聞香講座
- ミュージアムコンサート
講演会やスライドトークでは、講師の方から作品や美術館にまつわるお話を聞けます。
展覧会をさらに楽しめる情報がいっぱいです。
煎茶会や聞香は本展のために企画されたイベント。煎茶会では当時を再現し、聞香では展示している香木と似たものを用意したこだわりもポイントです。文香のお土産付きなのも嬉しいですね。
香木やお茶の香り、煎茶の味わいに心満たされてみましょう。
五感で古美術を楽しめる展覧会となっています。
「古美術ってなんだか渋そう」「古美術のおもしろさや鑑賞の仕方がいまひとつわからない」と思っていた人でも、お散歩気分でさまざまな美術品に触れてみることで、自分のお気に入りに出会えるのではないでしょうか。
会期は10月23日(日)まで。
作者のまなざし、歴代の鑑賞者のまなざし、コレクターのまなざし。
そこに私たちのまなざしを重ねてみましょう。
会期 | 2022年9月10日(土)〜2022年10月23日(日) |
住所 | 東京都港区六本木1丁目5番地1号 |
時間 | 11:00〜18:00 金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで |
休館日 | 月曜日 ※祝日の場合は開館、翌平日休館 |
観覧料 | 一般1,000円(800円)、高大生600円(500円)、中学生以下無料 ※20名様以上の団体は()内の割引料金 ※障がい者手帳ご呈示の方はご本人および同伴者1名まで無料 |
TEL | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
URL | 泉屋博古館東京|https://sen-oku.or.jp/tokyo/ |
交通案内 | 東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅下車 東京メトロ日比谷線「神谷町」駅下車 4b出口より徒歩10分 東京メトロ銀座線・南北線「溜池山王」駅下車 13番出口より徒歩10分 |