学生時代に頑張って作り上げたものが評価され、大学に「買い上げ」られる。何と光栄なことか。
東京都・上野の東京藝術大学では、古くから「買上制度」によって学生たちの優秀な作品を買い上げてきました。「買上展」はそのコレクションの中から選りすぐりの約100件を一挙に公開する展覧会です。
3月末、桜の盛りの上野恩賜公園へ。東京藝術大学大学美術館のプレス内覧会のお写真とともに、見どころをご紹介します。
『買上展 -藝大コレクション展2023-』の概要
本展では東京藝術大学が買い上げた卒業・修了制作を通じて、日本の近現代美術史が生まれてきた場を振り返ります。買い上げられる作品や大学の学科は、歴史とともに変化を遂げてきました。
国の公共美術教育機関が買い上げた作品とは、一体どのようなものでしょうか?
今回のコレクション展は、藝大の買上作品が時代の最先端にあったことを示しつつ、多彩な学科を網羅的に俯瞰できる大規模なスケールを誇ります。
・絵画から映像まで、幅広いジャンルの芸術作品を見たい!
・美大や芸大への進学を目指していて、特に東京藝術大学に合格したい!
・春から初夏のお出かけシーズンに上野公園でアート巡りをしたい!
「買上」とは、東京藝術大学が卒業および修了制作の中から、各科ごとに特に優秀な作品を選定して買い上げる制度のことです。「優秀」の定義は学科にもよりますが、基本的には首席クラスとのこと。
その歴史は昭和29年(1953年)に遡り、前身である東京美術学校でも卒業制作を買い上げて収蔵する制度がありました。令和5年は買上制度が始まってから70年を迎える年です。
現在、所蔵されている「学生制作品」は1万件を超えているのだとか!
本展ではその中から約100件を厳選し、日本の美術教育の歩みを振り返ります。
会場では、明治から現在に至るまでの買上作品をお披露目しています。横山大観《村童観猿翁》や高村光太郎《獅子吼》など、近代日本の巨匠の代表作と言われるものも必見です。実は、これらも東京美術学校の卒業制作なのです。
近代日本美術を牽引した作家から現代の若きアーティストまでが手掛けた、幅広い年代の優秀作品が一堂に会します。
第1部では、明治から昭和前期までの東京美術学校卒業制作を中心に、学生たちの創作活動の全貌を明らかにします。貴重なデビュー作や自画像などは、教育資料として保管する意図もあったといいます。
油画専攻の前身となった西洋画科では、卒業時に自画像を描いて学校に納めることが伝統でした。
2022年に泉屋博古館東京の『特別展 生誕150年記念 板谷波山の陶芸』展で出品されていた《元禄美人像》にもお目にかかれます。
第2部では、東京藝術大学の各科が選ぶ買上作品を紹介しています。全12ジャンルの豊かなコレクションを鑑賞できる、またとない機会です。
近年は先端芸術表現、文化財保存学、グローバルアートプラクティス、映像研究など研究領域も広がり、表現方法も多様化してきています。藝大における美術教育の歩みや、今日の傾向などがわかります。
- 日本画
- 彫刻
- 油画
- 工芸
- 建築
- デザイン
- 美術教育
- メディア映像
- グローバルアートプラクティス
- 先端芸術表現
- 文化財保存学
- 作曲
日本画・彫刻・油画・作曲は、東京美術学校時代から学科として設立されているジャンルです。
工芸科は彫金・鍛金・鋳金・漆芸・陶芸・染織・素材造形(木材・ガラス)の7分野があり、その創造性は多岐にわたります。
デザイン科ではI・D(インダストリアルデザイン, 工業意匠)とV・D(ビジュアルデザイン, 視覚伝達デザイン)の専攻があり、卒業生はデザイナーやクリエイティブディレクターとして活躍しています。
建築科では建築そのものを収蔵することは難しいため、設計図面や模型、映像やデータなどが買上対象となっていることが特徴的です。
メディア映像専攻は、映画専攻・アニメーション専攻とともに映像研究科の1つです。
先端芸術表現科ができたのは平成11年(1999年)4月のこと。設立以来「社会の中で芸術は何ができるのか」をテーマに多様な手法を用いて、特定のメディアの枠組みを超えた表現を試みています。インスタレーション作品やパフォーマンス、メディアアート、映像などが主な作品です。
美術教育研究室は、理論と実技の両方が求められる課程です。藝大という実技を専門とする教育機関において、いかに理論研究を両立させていくかが大切だといいます。
文化財保存学専攻の前身は、昭和39年(1964年)に開設された大学院保存修復技術講座です。遥か遠い時代の技術や美術品の形状・素材などを考察し、卒業後は仏像など国宝や重要文化財の修復、文化庁の模写事業などに携わります。文化財の記録や保存に携わるプロも、なくてはならない存在です。
グローバルアートプラクティス(GAP)は最も新しい専攻の1つで、現在は6割強が留学生です。異なる文化・言語・ジェンダーの学生が世界中から集まり、基本言語は英語。文字通りグローバルで多様性に富んでいます。海外の美術大学との協働授業や、多彩なアーティストによる集中ワークショップなど思い切ったカリキュラムで学べます。
社会問題について考える力や言語化スキルなど、クリエイティブの技術力に留まらない力の養成を目指しており、修了作品だけではなく修了論文または修了エッセイの提出が求められるのも特徴的です。
これからアートの世界に関わりたい人、アーティストとして活躍したい人に是非見てほしい展覧会です。「何かクリエイティブをやってみたいけれど、まだ分野や方向性が定まっていない」という人もヒントを見つけられるかもしれません。
展覧会は5月7日(日)までです。
東京藝術大学では入場無料のギャラリー「藝大アートプラザ」なども見ることができます。また、「芸大美術館ミュージアムショップ」はこの買上展をもって営業終了となるそうです。今のうちに訪問してみましょう。
会期 | 2023年3月31日(金)〜5月7日(日) |
住所 | 東京都台東区上野公園12-8 |
時間 | 10:00〜17:00(最終入館時間 16:30) |
休館日 | 月曜日 ただし、5月1日(月)は開館 |
観覧料 | 一般 1200円 大学生 500円 *高校生以下及び18歳未満は無料 *障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料 |
TEL | 050-5541-8600 (ハローダイヤル) |
URL | 東京藝術大学大学美術館|https://museum.geidai.ac.jp/ |
交通案内 | JR上野駅(公園口)、東京メトロ千代田線根津駅1番出口より徒歩10分 京成上野正面口駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅7番出口より徒歩15分 当館には駐車場はございません。 |