自然は、父なる神によって作られたもの。
それは「第一の書物」たる聖書と同じく、神の真意が刻まれた「第二の書物」と言えるだろう。
本展の「自然という書物」というタイトルの由来は、キリスト教の自然観を反映した古くからのトポス(常套表現)だと言います。
初めは想像力を手がかりに自然を見ていた人々が“科学的な眼差し”を持つ。その契機は15世紀、活字や版画といった印刷技術によって動植物の正確な情報が知られたことも大きいと言います。版画——まさにここ、東京都・町田にある町田市立国際版画美術館はそのテーマを取り上げるにはぴったりの場所です。
3月中旬の寒空に春の気配を少しずつ感じる中、プレス内覧会へ。
展覧会の見どころや関連情報をご紹介します。
『自然という書物―15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート』の概要
本展は、15世紀から19世紀までの西洋の「ナチュラルヒストリー」、すなわち自然誌・博物学に注目しています。かつての人々はどのようにして自然のすがた・かたちを表現してきたのか、400年近い時の流れを追いながら紹介する展覧会です。
・植物や昆虫などが好き!図鑑を見るように楽しみたい!
・自然をモチーフにした美術作品を見てみたい!
・落ち着きのある美術館でゆったりと自然に触れたい!
西洋のナチュラルヒストリー(自然誌/博物学)とは、自然物や自然環境——動物や植物、微小な生物などさまざま——に関する記録や記述のことです。
これまで探検家や博物学者など、多くの人によって研究が進められました。ナチュラルヒストリーの研究を通じて、人々は動植物の分類や進化について理解を深め、生態系や地球環境の変化を知ることができたのです。
本展ではナチュラルヒストリーに関する版画や絵画、資料が200点以上も展示されています。ボリュームのある展示は見応えがあり、充実感のある鑑賞体験にはぴったりです。
第一章は「想像と現実のあわい―15、16世紀」と題され、まず中世ヨーロッパの自然観とはどのようなものだったかを解説しています。その上で切り離せないのが「神」の存在です。当時の人々は自然を表現するにあたって、実際の観察よりも想像力によって補っている、そういう時代でした。
15世紀になると自然の記述や描写がリアリティのあるものになり、活字や版画を通じて情報が広く正確に広まるようになりました。
人々のものの見方が変化したきっかけは2つあると言います。1つは合理主義哲学の祖とされる哲学者のルネ・デカルトの思想。もう1つは17世紀に入り、顕微鏡や望遠鏡といった光学器械が登場したことだと捉えられています。蝿のような小さな虫が本当はどのような形をしているか、その発見は人々にとって大きなものでした。
また、「大航海時代」の始まりによって記述/描写の対象となる自然の範囲は広がりました。
温室が生まれたのもこの時代です。東洋から輸入したオレンジなど柑橘類を育てたことから「オランジュリー」と呼ばれた温室は、富や権力を象徴するもの。
「果実を持つ」ということ自体も豊かな資本の象徴であり、果実を描いた絵は権力者たちが好んだものでした。
第三章からは、分類の基礎ができた18世紀に入ります。リンネは『自然の体系』によって植物を、ビュフォンは『博物誌』によって動物を分類し、今日に通じる動植物の分類体系の礎を築きました。
探検家の世界就航も大きな成果を成しました。自然科学者のチャールズ・ダーウィンによる「進化論」や『種の起源』は、人々の自然への関心をアップさせたと言います。実際にそのムーブメントは文学作品にも表れました。
【展覧会レポート】森アーツセンターギャラリー「特別展アリス —へんてこりん、へんてこりんな世界—」多色刷りの進歩やリトグラフ(石版画)が生まれたことも、動植物をより高い解像度で表現することを可能にしました。自然物が美しく見えるように工夫されたレイアウトにも注目です。
第四章からはテーマが一気に近現代的になるのがおもしろい!
「デザイン、ピクチャレスク、ファンタジー」の3つの軸で展開していきます。ウィリアム・モリスやターナー、ミュシャなど有名画家の作品も見られます。
デザインに関しては自然美の要素が本、まさに「書物」の装飾に使われたり、建築の造形モチーフとなったりします。グラフィック・デザインの一要素として紙面を彩り、自然の表現はより自由な方向に向かいました。
評論家や水彩画家の肩書きを持つジョン・ラスキンは「美術に科学を持ち込むなんて!」と言っていたそうですが、自身も学者だったのでその表現は分析的。鋭い観察眼で美術や建築を見ていました。
「ピクチャレスク」とは自然を絵画的に表現することを指し、標本のように無地を背景に対象を記したものとは対照的な作品です。アーティストたちの自然観がよく伝わります。
幼稚園のことを英語で“kinder garden(キンダーガーデン)”と言いますが、語源は「植物を育てるように、子供を育てる庭園」なのだとか。
展示のラストを飾るのは、それこそ庭園のように華やかで色彩豊かな植物画です。そのファンタジックで心躍る世界観を十分に楽しみましょう。
町田市立国際版画美術館では、展覧会に合わせたさまざまなイベントが企画されています。
記念講演会やポップアップストア、プロムナードコンサート、担当学芸員によるギャラリートークなどが盛り沢山。ぜひ公式ホームページや公式SNSをチェックしましょう。)
来館するときは、自然物(動物、植物など)をデザインしたファッション(衣類、服飾雑貨など)で行くと入場料が一律200円引に!
アニマル、ボタニカルなイメージの装いでアート鑑賞の気分をより高めましょう。
また、ミュージアムカフェ「喫茶けやき」では、展覧会の開催特別メニューを販売しています。
緑豊かな自然がイメージできる「ほうれん草のパスタ 〜緑の物語〜」は単品800円、セット1,050円。ランチにおすすめです。
中世から近現代まで、大きな時代の変化の中で自然・美術・人はどのように変わっていったのか。本展ではその道筋が丁寧に解説されています。
展覧会は5月21日(日)までです。
実は町田市には、「町田リス園」や「かしの木山自然公園」など動植物と触れ合える自然豊かなスポットも豊富です。初夏のお出かけに足を運んでみませんか?
会期 | 前期 2023年3月18日(土)〜4月16日(日) 後期 2023年4月18日(火)〜5月21日(日) |
住所 | 東京都町田市原町田4-28-1 |
時間 | 10:00〜17:00 土・日・祝日10:00~17:30 ※入場は閉館30分前まで |
休館日 | 月曜日 |
観覧料 | 一般 900円(700円) 大学・高校生 450円(350円) ※中学生以下は無料 ※( )内は20名以上の団体料金 ※開館記念日4月19日(水)は入場無料 ※シルバーデー(毎月第四水曜日)4月26日は65歳以上の方は入場無料 ※身体障がい者手帳、愛の手帳(療育手帳)または精神障がい者福祉手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は半額 ※各種割引を予定 ※会期中の土日祝日・シルバーデーは町田駅周辺から無料送迎バスを運行。 |
TEL | 042-726-2771 |
URL | 町田市立国際版画美術館|http://hanga-museum.jp/ |
交通案内 | http://hanga-museum.jp/guide/access |