【展覧会レポート】Bunkamuraザ・ミュージアム『ミロ展 日本を夢みて』

「長い間、日本を夢みていた」

スペインのバルセロナで生まれたジュアン・ミロは、若いときから日本に興味を持ち、日本美術に影響を受けながら創作活動をしていました。
日本好きの友人たちとも交流しながら思いを馳せ続け、念願叶って初来日を果たすのは73歳のとき。
積年の想いが冒頭の言葉となって、深い感慨を表したのです。

それほどまで日本に憧れたミロの軌跡とは。
そのすべてを見せる展覧会が、東京都・渋谷Bunkamuraザ・ミュージアムで始まっています。

3月半ば、「ブロガー内覧会」に訪れて現地の様子を取材しました。
このレポートでは、会場の様子や見どころをご紹介します。

会場内の写真について

※本展主催者の許可を得て撮影をしています。

『ミロ展 日本を夢みて』の概要

今回のミロ展は、2002年の「ミロ展」以来の開催。
2010年以降の10年間では、カタルーニャや日本の研究者によって、日本とミロの関係について非常に研究が進んだそうです

西洋の視点から見たときの“東洋の影響”も、これまでは印象論でしかない部分が大きかったのだとか。
しかし、禅の美術との関連性や、今まであまり言及されてこなかった民藝との関係を発見したことで、10年ぶりにして新たな切り口でミロを紹介する展覧会になったのです。

こんな人におすすめ

・色鮮やかでモダンなアートを見たい!
・ミロってどんなアーティストなのかを知りたい!
・お洒落な展覧会グッズやコラボメニューも楽しみたい!

音声ガイドは俳優の杉野遥亮(すぎのようすけ)さん。

バルセロナにも行ったことがあるという杉野さんが、みずみずしい感性で明るくミロの作品を解説してくれます。
Bunkamuraやミロ展の雰囲気にもぴったり。
特別なシークレットトラックもあるので、ぜひ聞きながら展示室を巡ってみましょう。

ミロはどうして「日本を夢みて」いたの?

ミロは美術学校の仲間とも日本への憧れを共有していて、友人の中には俳句に興味を持った詩人や、浮世絵の輸出品「ちりめん絵」のコレクターもいたようです。
俳句は五・七・五に言葉を当てはめる、日本語ならではの芸術といったイメージがありますが、こうして海外の人びとにも影響を与えていたのはおもしろいですね。

ミロの両親は息子を事務職に就かせようとしたそうですが、商社勤めをしたミロは体を壊してしまい、田舎町で療養した経験もありました。
自分の大好きで本当にやりたかった絵を、沢山描いたことで元気を取り戻し、とうとう両親も画家になることを認めたそうです。
もしかして繊細な人だったのかも?と感じるエピソード。

晩年は、妻の故郷でもあるマジョルカ島のアトリエで過ごします。
マジョルカ島にルーツがあるのは、同じくスペイン人の作家ミケル・バルセロとも一緒です。
スペイン人の画家という点では、パブロ・ピカソとも共通しています。

展覧会の見どころ

ミロの歩みを追うように、初期の作品から晩年までをとても丁寧にキュレーションしています

古い作品ほど、のちに“ミロの代表作”と言われる絵とはテイストが異なるもの。
しかし、それらも晩年のミロの到達点を予感させる作品群として、意味付けた上で見せているところが印象的です。

ジュアン・ミロ《絵画(カタツムリ、女、花、星)》
展覧会のメインビジュアルにもなった作品です。

ミロは日本を愛する上で、外面的な部分ではなく、日本美術に表れる精神性に共感していたこともわかります。
それほど日本に寄り添ってくれていたと思うと、嬉しくなりますね。

意外!ミロの初期はまったく違ったスタイル

展示室で最初に目にするのは《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》
太い線に柔らかなパステルカラー、背景のまぶしい黄色、西洋的なくっきりとした顔立ち。
その背後には大きな浮世絵があります。

ジュアン・ミロ《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》

まさに、ミロの「スペイン」と浮世絵の「日本」が混ざり合ったビジュアル。
この展覧会の入り口として、象徴的にミロの世界に誘ってくれます。

初期のスタイルを見ると、「これがミロなの?」と不思議に思いますが、モチーフやディティールには日本美術の影響をたしかに感じられます。

絵のスタイルは、《夢の絵画》シリーズを機に大きく転換します。
一面を塗りつぶした背景に、線で描く抽象的な絵画。
シュルレアリスムにも影響されたという、不思議な世界に魅了されます。

ジュアン・ミロ《絵画(パイプを吸う男)》

ここまで「ミロと日本」の関係性を強調されながらも、まだこの時代のミロは日本を訪れていません。

——いつか日本へ。早く日本へ。
そうしたミロの思いが伝わるようです。まるで、ミロの憧れを私たちが追体験するかのように。

ミロ、念願かなっていよいよ来日を果たす

ミロは73歳にして、ついに日本での「ミロ展」開催のために海を渡ります。
約2週間で、日本各地を巡る盛り沢山のスケジュール。
展示室には、ミロが日本で過ごしたさまざまな思い出が紹介されています。

歌舞伎や相撲を見たり、陶芸や書道を体験したり、神社や仏閣を訪れたり……。
嬉しそうに微笑むミロの表情に、思わず「良かったね、ミロ!」と声をかけたくなるほど。

この頃ミロは日本のやきものに関心があり、美術学校の仲間だったジュゼップ・リュレンス・イ・アルティガスと一緒に陶芸を始めます。
アルティガスは『民藝』の活動家・柳宗悦とも親しく、そうした繋がりからミロも日本の民芸品を手にしました。

カタルーニャ語に翻訳された、岡倉天心の『茶の本』も読んでいたといい、日本への関心をますます深めていたことがわかります。

帰国後は、とりわけ書道や書画に影響された作品を多く描くようになりました。

線の表現はさらに洗練され、シンプルさの中に力強さを感じます。
実は、黒を「色」として使うのは日本美術のスタイル。西洋では「影」として表現されてきたものです。

ミロの絵では“黒”が色として存在感や躍動感を持ち、画面を引き締めています。

ジュアン・ミロ《絵画》

晩年の作品の中には、日本の絵巻物をイメージして作られたものも。
確実に日本美術の影響がありながら、スペイン人であるミロ自身のアイデンティティや、自分らしく自由なオリジナルの表現を取り入れて昇華しています

ジュアン・ミロ《マキモノ》

最後の展示室「Ⅵ ミロのなかの日本」では、日本での滞在を経てさらに進化した作風を紹介し、ミロが日本との繋がりを通して育んできた芸術の到達点を示しています。

瀧口修造という人

ミロを語る上でのキーパーソン、瀧口修造(たきぐちしゅうぞう)
早くからシュルレアリスムを日本に紹介していた、詩人であり美術評論家です。

世界で初めてミロの本を出した人物でもあり、日本の展覧会でミロの絵に出会ったときは、興奮して暗くなるまで展示室を歩いたのだとか。

ミロは、瀧口が自分を紹介してくれたことを大変喜び、書籍『ミロ』は二人の交流のきっかけになったそうです。
滝口はミロが日本を訪れる前から、手紙をやりとりして詩を贈っていました。

長い時を経てミロが念願の来日を果たし、初めて会ったときはお互い無言で抱き合ったそうです。胸熱!!

「Ⅴ 二度目の来日」と題された展示室では、ミロと瀧口の親密さや深い関係性がうかがえます。

ミロが瀧口に、故郷・カタルーニャの特産物であるひょうたんを贈ったり、二人で共作して詩集を出したりと、本当に仲が良かったことを感じられる空間。
二人とは直接の交流がない私たちでも、温かな友情に心和みます。

「ミロ展」はグッズも豊富で楽しい!カフェのコラボメニューにもご注目

ショップでは、ミロの作品をモチーフにしたグッズやリトグラフを販売しています
Tシャツはシンプルなデザインで、普段使いにもおすすめ。
手ごろな文房具やピンバッジも、鮮やかな色彩がおしゃれで日常を楽しくするにはぴったりです。

マグカップやポーチなどさまざまなアイテムが豊富で、展覧会を見た後のお買い物も楽しめます。

Bunkamuraザ・ミュージアムの併設カフェ「ドゥ マゴ パリ」では、コラボレーションメニューとして本場スペインでもお馴染みのドリンク「ホットチョコラーテ」を楽しめます。

ホワイトチョコレートや花びらの入ったおしゃれなグラスに、熱々のチョコラーテを注いで飲むスタイル。

小腹が空いた方は「チュロスセット」もおすすめです。
少し塩気のあるカリカリのチュロスは、甘いチョコレートと相性抜群。
豊かなひとときを過ごせます。

チョコラーテ
ノンアルコール1,200円/アルコール1,400円/SETチュロス+300円(税込)

ミロ、「日本を夢みて」くれてありがとう

記者としては、今回展で最も印象に残ったのは「Ⅳ 日本を夢みての空間でした。

若い頃から日本に憧れ、遠い国を夢に見つづけたミロ。初来日にはすでに高齢になっていました。
それでもミロは子どものように目をきらきらとさせて、書道や陶芸などあらゆる日本文化を楽しんでいたのです。
日本庭園で縁側に座り、満たされた表情で枯山水のお庭を眺めるミロの後ろ姿から、どれほどの幸福が伝わってきたか。

歳月を重ねても、“夢みた”ことはいつか叶う
そんな前向きなメッセージも感じられ、生きる勇気を与えてくれたように思います。

こんなに遠い国を生涯ずっと愛してくれたミロに、感謝を伝えたい。
そして、私たちは日本の美しい芸術や文化、素晴らしい感性を誇りに思っていいのだと感じさせてくれました。

ミロの作品に溢れるモダンなテイストが、Bunkamuraザ・ミュージアムの雰囲気とも融合。
現代的な展示がよく似合う館で、ミロの魅力はさらに引き立っていました。

会期は4月17日(日)まで
どうかその目で。

展覧会情報
会期2022/2/11(金・祝)~4/17(日)
住所〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
時間10:00-18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
※金・土の夜間開館につきましては、状況により変更になる可能性もございます。
休館日2/15(火)、3/22(火)は休館
観覧料一般 当日:1,800円
大学・高校生 当日:1,000円
中学・小学生 当日:700円
TEL03-3477-9111(代表)
URLBunkamura ザ・ミュージアム|https://www.bunkamura.co.jp/s/museum/
交通案内■JR線「渋谷駅」ハチ公口より徒歩7分
■東京メトロ銀座線、京王井の頭線「渋谷駅」より徒歩7分
■東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線「渋谷駅」A2出口より徒歩5分
ご案内

※会期・開館情報は状況により変更になることがあります。
最新情報は、美術館のホームページ、SNSをご覧ください。