——あるがままを、あるがままに見る。
現代アートの巨匠、李禹煥(リ・ウファン)の言葉です。
彼の大規模な回顧展が東京都・六本木の国立新美術館で開かれました。
彼の言う「もの派」とは何か、李禹煥の作品はどのようにして評価されたのか。
東京では初となる彼の大規模展示、その見どころをご紹介します。
『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』の概要
国立新美術館の開館15周年を記念する展覧会。
国際的にも大きな注目を集めてきた「もの派」を代表する美術家・李禹煥を取り上げ、その魅力に迫ります。
・李禹煥の作品が好きだから見たい!
・有名な現代アートを見に行きたい!
・都心にあるアクセスの良い美術館に行きたい!
音声ガイドはナビゲーターに俳優の中谷美紀さんを迎えており、キュレーター解説では国立新美術館の主任研究員・米田尚輝さんのトークが聞けます。中谷さんの落ち着いたトーンが聞きやすい!
作家解説で李禹煥本人も登場します。
また、展示室入り口で配布している「李禹煥鑑賞ガイド」も必見です。
ガイドブックはゆるいタッチでほのぼのとしているように見えて、よく読んでみると内容は超濃密。
演劇や日本画に親しんだことなど、李禹煥の意外な一面までよくわかります。
読み物としておもしろく、かつ展示鑑賞の解像度が上がるキーアイテム。ぜひ手に取ってみましょう。
李禹煥は1936年生まれ。生まれは韓国ですが、日本で活躍したアーティストです。
子どもの頃から詩や書画などに親しむ文人教育を受けた、いわば“根っからの文系”。初めはソウルの美大に通っていましたが、縁あって日本大学文理学部の哲学科で学びました。
彼の作品を見ていると、哲学や思想を学んだことには納得できる気がします。
やがて自らの表現を「もの派」と呼び、注目を集めるようになったのです。
ヴェルサイユ宮殿の庭に作品を設置したり、香川県・直島に李禹煥美術館ができたりと、世界中で活躍をするようになりました。
瀬戸内国際芸術祭に行く方法は?交通手段や予約・見どころ・おすすめプランについて紹介!もの派とは、芸術をイメージ・主題・意味の世界から解放し、「ものともの」「ものと人」との関係を問いかけることを指します。
……ただ聞いただけでは、何のことなのかわかりにくいかもしれません。
しかし、本展を見れば李の表現したかったことがきっとわかるはずです。
ものや人の関係の様相、関係の場を李禹煥は“関係項”と名付けました。
序盤の展示室では石や鉄板など、さまざまな素材が“関係項”の中にあります。
関係によって生じる変化を目にして「鉄は硬い」「綿は柔らかい」といった、シンプルな思考に立ち帰れるのではないでしょうか。
また、李禹煥のアートは空間も含めて作品です。
展示室内を自由に歩き回れる私たちは、余白に干渉できるとも言えるでしょう。
今回は野外展示場も用意されています。
直島にもある《無限門》シリーズの新作を設置。実際に門の下をくぐって楽しめます。
さまざまな立体作品を経て、李の表現は絵画へと回帰します。
初期の作品は、規則正しく点を打ち、線を引いて時間の連続性を表すもの。
一つひとつが無限の探求・試みを意味しています。
やがて規則性は崩れて「混沌」となり、「単純」化される過渡期の様子がわかるのも本展のおもしろいところです。
何度も塗り重ねられて厚くなったストローク、まるでコップのように見える“点”は質量があり、まさに先ほど見てきた石などと共通しているような印象。
「物語や意味ある記号を描かなくても絵画性を表せるようになった」と李禹煥は語っています。
さらに後期にはキャンバスではなく壁に直接描き、絵が描かれた空間そのものが1点のストロークを際立たせています。
李禹煥美術館にある同様の展示は靴を脱いで鑑賞するので、もはや床まで一体となり空間の広がりに圧倒されます。
記者が初めてしっかりと李禹煥作品を見たのは、2020年に森美術館で開催された『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』。
当時は恥ずかしながら、まだ李禹煥の表現のおもしろさに全く気づけていませんでした。
石がある。鉄板がある。「で?」って思う。
失礼な話ですが本当にそうだったのです。
だから、本展で李禹煥アートの本質的な魅力に気づけたのは嬉しいことでした。
関係や無関係による影響がある。そうやって世界はできているし、我々はそこで生きている。
何を表しているか、意味を考えること自体がナンセンス。そこにただ在るだけ。自由。
——私も意味を持たずに自由でありたい。
東京での展示は11月7日(月)まで。
その後は兵庫県立美術館に巡回します。李曰く、「安藤忠雄さんの建築は空間を活かす力がある」のだとか!
実は、李禹煥美術館を設計したのは安藤忠雄。
同じく安藤氏による兵庫県立美術館で見られる展示も必見です。
会期 | 2022年8月10日(水)~11月7日(月) |
住所 | 〒106-8558東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館 企画展示室1E |
時間 | 10:00~18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで |
休館日 | 毎週火曜日休館 |
観覧料 | 1,700円(一般)、1,200円(大学生)、800円(高校生) |
TEL | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
URL | 展覧会 公式サイト|https://leeufan.exhibit.jp/ |
交通案内 | https://www.nact.jp/information/access/ |