ヒーローへの憧れ。悪者をやっつける正義の味方や、どんな戦も切り抜ける歴戦の猛者、超人的な力を発揮して戦うスーパーマン。現代でも『MARVEL』作品のヒーローたちが世界中で愛されるように、強くてかっこいい存在への熱狂は今も昔も変わらないものです。
日本で遥か昔に活躍した武者たちもまさにヒーロー。その伝承や伝説は、江戸時代になってから浮世絵として市民に伝わり人びとを楽しませます。そうした英雄たちを描いたアートが海外でも人気を博したこと、知っていましたか?
海外の美術館に所蔵された、日本の武者絵とそれにまつわる刀剣。これらを一度にお見せする展覧会が東京都・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催されました。展示作品や会場の様子、ショップやカフェの楽しい企画をそれぞれご紹介します。
ボストン美術館の所蔵作品はなんと50万点。拠点をアメリカに置きながら日本美術のコレクションも膨大で、浮世絵だけでも5万点、刀剣は600口とスケールの大きさに圧倒されます。質・量ともに世界一と言われているコレクションです。
海を渡った日本の浮世絵や刀剣。それが時を経て、東京の美術館にやってきます。日本初出展の作品も数多く、これが初の里帰りになるのだとか。そうした刀剣と浮世絵にスポットライトを当てた展覧会です。
ナビゲーターの黒羽麻璃央さんはミュージカル『刀剣乱舞』で三日月宗近役を務める俳優の方。刀剣との縁の深さを感じます。解説ナレーターの小西克幸さんとの掛け合いも素敵です。ぜひ音声ガイドを借りてじっくり聴いてみましょう。
会場内の上映コーナーでは、黒羽さんが刀剣作り体験をしている特別映像も見られます。
浮世絵にはさまざまなジャンルがあります。江戸の町並みや富士山を描いた風景画、吉原など遊郭の遊女たちを描いた美人画、歌舞伎役者のブロマイドとしても人気だった役者絵。その中でも、有名な戦国武将や歴史的ヒーローを題材にしたのが「武者絵」です。
代表的な絵師のひとり、歌川国芳は「武者絵の国芳」と呼ばれるほど。
その武者たちが昔から使っていた武器が刀剣です。馬に乗りながら剣を振るったり、相手と激突して斬り合ったり。中でも名将の愛用した刀や、妖怪を斬ったと伝えられる刀は名品として後世にも名前が残っていったのです。
刀剣と浮世絵の展示、それぞれがとにかく大ボリューム。展示室を進むごとに、壮大な時代の流れを感じられるところもポイントです。ボストン美術館所蔵の刀剣からは20口が厳選され、「小烏丸(模作)」「髭切」「膝丸」など名のある刀が並びます。
『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『BLEACH』といった漫画・アニメ作品にも、日本刀で敵を倒すシーンがありますね。それらを身近に感じているファンも楽しめるかもしれません。
本展の特徴は、勇壮な武者絵に描かれたストーリーを時代順に見られること。各時代をざっくりと分けて、キーワードを並べてみました。歴史の授業で習った記憶がある人もいるかもしれません。
- 日本神話の時代 … スサノオノミコト、ヤマタノオロチ
- 源平の争いの時代 … 源頼光の四天王、巴御前、『平家物語』、『義経記』
- 戦国の時代 … 上杉謙信VS武田信玄
源頼光と彼に従事した四天王をテーマにした作品点数は特に豊富です。名刀「膝丸」を手に妖を退けた「土蜘蛛退治」や、人食い鬼に酒を飲ませて倒した「酒呑童子退治」を筆頭に、刀を手にして強敵に立ち向かった英雄譚がみられます。
牛若丸(源義経)と武蔵坊弁慶が五条橋で出会うストーリーも描かれています。小柄で若々しい主人公と大男の相棒は絵になります。
さらに、絵の中のモチーフをデザインした鍔や、武勇伝説に登場する刀剣が近くに展示されているのもおもしろいところ。
作品によってはマンガでストーリーの解説があり、古来の物語が浮世絵になったことで子どもを含む民衆に広まった、という説明との関連性を感じます。
宇治川合戦で、義経が率いる源氏の軍勢がなだれるように崖を駆け降りた様子は圧巻。畠山重忠は愛馬「三日月」を傷つけまいとして、両手で担いで降りたそうです。
最後の展示室は刀剣ファンには嬉しい空間です。刀身や拵はすべて独立ケースで配置され、裏側までしっかり眺められる配置。並べ方も日本刀に特有の反りをイメージしたかのような曲線になっていて、こだわりを感じられます。
実は西洋の剣がまっすぐであることに対し、反りのある日本の刀剣は制作が難しく、世界でもこのような武器は珍しいそうです。日本人の技術の高さや美意識を感じられます。《刀 銘 水心子正秀(花押)》などの名刀を心ゆくまでじっくりと眺められます。
単眼鏡を使ってじっくり見るのもおすすめです。一見同じような刀に見えても細部をよく見てみるといろいろな違いがあることに気づきます。刃紋の形、表面の質感、彫られた文様など——ひとつひとつの個性を「おもしろい!」と感じたら、刀剣鑑賞がもっと楽しくなるかもしれません。
展示室を出た先の特設ショップには、浮世絵の名品をモチーフとしたポストカードやクリアファイル、Tシャツ、入浴剤などのグッズがたくさん。真っ黒な「玉鋼ビスコッティ」や本物の玉鋼を使ったヘアゴムなど一風変わったものもあります。
さらには手鎚を模したピンズや刀の形をリアルに表現したアクリルスタンドなど、マニアックなアイテムも。また、併設レストランの「THE SUN & THE MOON」ではコラボレーションメニューを展開しています。前期と後期それぞれでドリンクやデザートを用意しています。
武者絵で伝わる英雄たちの物語は、日本人だけでなく海外の人々も魅了してきました。「日本美術にはあまり親しみがないなぁ」と思っている方も、こうした展覧会なら楽しく美術鑑賞ができるかもしれませんね。
展覧会は3月25日までです。クールな“JAPAN”の魅力をぜひ、会場でお楽しみください。
会期 | 2022年1月21日(金)~2022年3月25日(金) |
住所 | 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階) |
時間 | 10:00〜20:00 火曜日のみ17:00まで 最終入館は閉館30分前まで |
休館日 | なし |
観覧料 | 一般 2,100円 大学生・専門学校生 1,500円 高校生・小中学生 1,000円 ※未就学児は無料 ※全日日時指定制となります。 ※障がい者手帳をお持ちの方と介助者(1名まで)は上記料金の半額となります。 ※3階の美術館・展望台チケット/インフォメーションでご購入いただける当日券も、若干数ご用意いたします。 料金は上記日時指定券料金と同額です。なお、当日券は完売となる可能性がありますので予めご了承ください。 |
TEL | 050–5542–8600(ハローダイヤル 受付時間:9:00〜20:00) |
URL | 展覧会 公式サイト|https://heroes.exhn.jp/ |
交通案内 | https://art-view.roppongihills.com/jp/info/ |
\この記事が役に立ったと感じたら/