トップ写真撮影:鈴木優太
「なんかいいよね」「わからないけど何かいい」
日常でそう感じるものやデザインについて「なぜだろう?」と考える展覧会が、東京都・六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3で開催されました。
東京ミッドタウンの桜が咲き始めた春霖の日、プレス内覧会にご招待いただきました。本レポートで全作品のお写真とともに、展示レビューをお届けします。
「そばにあった未来とデザイン『わからなさの引力』展」 の概要
「わからない」
この言葉がいい、と本展デザインディレクターの宮沢哲氏は語ります。理由はわからないけれど、なんだかいいなと感じる。『わからなさの引力』展ではこのことをプラスに受け止め、可能性に満ちた言葉として捉えています。
では、クリエイターにとってのそれは何だろう?
こうした「説明しがたいけど魅力があるもの」について、さまざまなジャンルのクリエイターに問いかけたのが展覧会の原点です。
ドコモと言えばスマートフォン。プロダクトデザインにも関連の深い企業であり、デザインに向き合う思いが溢れています。
・プロダクトデザインを仕事にしており、新しい発見や刺激を得たい!
・21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2で開催中の『The Original』と一緒に他の展示も見たい!
・東京ミッドタウン周辺でお花見がてらアートを見に行きたい!
株式会社NTTドコモは、2010年から毎年デザインの展覧会を開催しています。なぜドコモがデザインの展覧会を?と思う人もいるのではないでしょうか。
NTTドコモは通信の会社ゆえに、これまでは良いサービスを目指して速さや便利さを重視してきました。「テクノロジーによって人々が豊かになるとは?」という問いに対する答えを追い求めていたわけです。
今まではそれで良かったかもしれません。しかし、「これでいいのか? 何かを取りこぼしているのでは?」と立ち止まったことが、デザインについて考えを深めるきっかけだったと言います。
昨今では、焚き火・レコード・古着・中古車など古いものが流行しています。「新しい」「速い」ことよりも「手間がかかること」を価値と考える人が増えてきたという見方があると言えるでしょう。
そうした背景から、2019年からは“デザイン”自体にフォーカスし、さまざまな試みをしています。例えば、2020年のコロナ禍では「未来はどうなっていくか?」を追究し、さまざまな人に意見を聞いたそうです。それを2022年に展開したのが『想像する余白展』でした。
社内でも「10年後くらいに私たちの暮らしはどうなっているか」と、少し先の未来を考察していくプロジェクトをずっと実施しているそうです。
会場にある13点の展示品は、それぞれ3つのキャプションが付いています。
- ご本人のコメント
- NTTドコモの視点
- 客観的・俯瞰的な視点
もちろん、ここに書かれている解釈が正解とは限りません。この3つに「鑑賞者の視点」を加えられるところが本展のおもしろさ。文字数は140字を目安とし、Twitter投稿のようなボリューム感を意識されたそうです。
そこで、本レポートでは「取材者・さつまの視点」を加えて考察してみます。
展示品が置かれている白い台は、鑑賞者に見てほしい視点をそれぞれ高さで調整しているのだとか。これを踏まえて、レポート写真もできる限り実際の目線に近づけてみました。
宮沢氏曰く「かっこつけていない、素直な感性で選ばれたものたち」が集まった本展。クリエイターたちの個性や価値観が出まくっています!
本当は恐ろしい動物である虎も、こうしてソフビのおもちゃになってしまうと可愛いもの。デスクや棚に飾っておけば小動物を飼っているような満足感がありつつ、虎を飼い慣らしているようないい気分になれそうです。
自然物こそ、人間の考えや想像力が及ばない不思議なクリーチャーとなることが珍しくありません。このヒシの実はなぜこのような形になったのか。バーチャル世界のクリエイティブのような、はたまた宇宙生命体のような、不可思議な神秘性を感じます。
普通の設えとするなら、虫食いなんてないほうが美しいでしょう。でも本当にそうだろうか?と考えさせられる作品です。無造作に食われた欄間はなぜだか味があり、独特な侘びさびを醸しているようにも感じます。
温泉に行くたびに気づいたら自宅に増えているタオル。安価なはずなのに不思議な使い心地の良さと非日常感がある、と考えると考察しがいのあるアイテムです。どれも同じ量産品のようでありながらロゴマークでしっかりとブランドを主張している、という指摘に感服しました。
なぜこんなに沢山!?と思うほど並べられたコンベックス。実用性だけを求めるなら1つで十分では……と思ってもこうして見ていると、まるでミニカーやビール瓶の王冠コレクションみたいに見えて可愛らしいなと感じます。
個人的に一番おもしろかった展示です。「何でこれ持ってるの!?」という驚きがまず1つ。しかも、デザインとテクノロジーの最先端を走るクリエイターの持ち物だというのもまた興味深い。そもそも、少なくとも私にとって日常ではあまり見慣れない「箕」を持っていて、ここに出品したことに関心を持ちました。
余談ですが、常夏の国・ミャンマーでは大統領もビーサンを履いて過ごすと言います。簡単な作りでありながら肌馴染みのいいアイテム。ご本人のコメントも納得しながら拝読しました。確かに想像してみると、家で仕事をして落ち着いたらビーサンを履いて外へ気分転換をしに行く、というのはすごくオンオフの切り替えになります。
やはりプロダクトデザイナーの人は、「もの」に対するセンスやアンテナが鋭敏だなぁと思った作品の1つです。可愛らしい見た目でつい欲しくなりますが、座ってみると低くて使い勝手が悪いというこの椅子。それでも廃棄されずに、幾人かの人の手を渡ってここにあるという事実に感慨を覚えます。
沖縄の工芸品とのこと。この作品は立てて展示したいというこだわりがあったそうです。指にはめて遊ぶおもちゃとのことですが、そうした昔ながらのものに「なんかいい」と感じてしまうのは、自然素材や手仕事の温かみも一役買っていると感じます。
硯こそまさに「速い・便利」とは真逆にあるものではないでしょうか。時間をかけて墨をすり、筆を浸してなくなればまた繰り返す。字をしたためるならペンのほうが、あるいはパソコンのほうが快適なはずです。それでもこうして手間暇かけて手書きで文字を書くアナログな営みは、現代のデジタル社会に生きる私たちが忘れかけている価値を思い出させてくれます。
ふわふわの可愛いぬいぐるみをもらったら、多くの人はきっと嬉しいはず。気難しい顔のお爺さんも、このクマやパンダを撫でてもらえば表情が柔らかくなるかもしれません。私も動物やぬいぐるみが好きなので、このチョイスには共感しました。一説によると、人は小さく丸っこいものを愛でる母性本能のようなものがあるのだとか。言われて想像してみれば、棒切れのような人形よりもこの子らのほうこそ愛情が湧いてくるように感じます。
バイクという乗り物は寒いし快適ではない、とキャプションにもあって確かにその通りだなと思いました。それでも否応なしに心惹かれてしまうのは、所謂「仮面ライダー」のようなヒーローに憧れる少年の心ゆえなのでは。このバイクの機種は珍しいものらしく、そうしたマニアックな特別感も人の心をくすぐるのでしょう。
宮島さん、素敵。やっぱりアーティストだなぁ。なんて思いました。宮島さんと言えば、デジタル数字のインスタレーションが有名な現代アートの作家さん。この日時計を折り畳んで携行した人々に思い馳せ、壮大な時間の流れや宇宙を感じるという、その感性に魅力を感じました。
宮沢氏は「市場の価値と気持ちの価値はイコールじゃない」とも言います。
実際に会場では、市場価値は決して高くなくありふれているのに「なんか捨てられない」と手元に置いてしまうものが並んでいます。そこに対して「なんで?」と考えるのが今回の展覧会。
目の前にあるもの自体を鑑賞するというよりは、ものを見ながら思考することが促されている場です。
会期は3月26日(日)まで。
少し先の未来のヒントは、意外と身近な「なんかいいもの」にあるのかもしれません。
会期 | 2023年3月18日(土)~26日(日) 計9日間 |
住所 | 東京都港区赤坂 9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3 |
時間 | 10:00~19:00 |
休館日 | 会期中無休 |
観覧料 | 無料 |
TEL | – |
URL | 展覧会 公式サイト|https://design.idc.nttdocomo.co.jp/event/ |
交通案内 | 都営大江戸線「六本木」駅、東京メトロ日比谷線「六本木」駅、 千代田線「乃木坂」駅より徒歩5分 |