春が、来る。

【展覧会レポート】世田谷美術館『マルク・シャガール 版にしるした光の詩 神奈川県立近代美術館コレクションから』

「私は自分の絵と言葉の中に、この世の現実からは遠いところにいる。」——マルク・シャガール

東京都・世田谷世田谷美術館で、マルク・シャガールの展覧会が開催されています。シャガール作品の中でも版画に注目した本展は、制作年代や背景の異なる6つの版画集が見どころです。

夏の足音が近づく頃、プレス内覧会へ。会場写真を交えつつ、展示の内容をご紹介します。

展示室入り口
会場内の写真について

※本展主催者の許可を得て撮影をしています。

『マルク・シャガール 版にしるした光の詩 神奈川県立近代美術館コレクションから』の概要

20世紀を代表する作家のマルク・シャガールは、宙を舞う恋人たちや花束、動物たちを色彩豊かに描いた「愛の画家」として知られています。

本展はそのシャガールらしい世界観に加えて、版画ならではの質感や表現の豊かさを堪能できる展覧会です。

こんな人におすすめ

・シャガールの色彩豊かな詩情溢れる世界観に触れたい!

・世田谷美術館の心地よく広い空間で西洋美術を見たい!

・絵画だけではなく文学も楽しみたい!

開催にあたり、神奈川県立近代美術館から望月コレクションをお借りしています。

前回の「麻生三郎展」に引き続いてのご縁ですね。

【展覧会レポート】世田谷美術館『麻生三郎展 三軒茶屋の頃、そしてベン・シャーン』

マルク・シャガールとは

マルク・シャガール(1887-1985年)は20世紀に活躍した画家です。帝政ロシア領ヴィテブスクにユダヤ人として生まれ、激動の時代の中でパリ・ベルリン・ニューヨークなど各地を拠点として活動した“異邦人画家”としても語られます。

絵画の傍ら、シャガールは版画制作にも熱心に取り組みました。約2,000点もの作品を手掛け、版画の分野でも大きな足跡を残したアーティストと言えます。

シャガール展の見どころ

本展は6章構成で、各年代と技法を代表する6つの版画集から選りすぐった作品約140点を紹介しています。

  1. 『ラ・フォンテーヌ寓話集』1927-30年制作(1952年刊)
  2. 『ダフニスとクロエ』1957-60年制作(1961年刊)
  3. 『悪童たち』1958年刊
  4. 『ポエム』1962-67年制作(1968年刊)
  5. 『馬の日記』1952年刊
  6. 『悪童たち』1967年刊

ポイントの1つは技法の違い。エッチング、リトグラフ、木版などの異なる質感が見どころです。また、作品によってはシリーズ全点が展示されているものもあり、一連の物語性を感じられます。

シャガールの感性豊かな色彩の世界

シャガール作品の特徴と言えば、光り輝くような色彩の世界。世田谷美術館の明るく開放的なホワイトキューブの空間には、シャガールの鮮やかな色使いがよく映えます。

この独特な色彩は、20から25色と通常よりもかなり多い版にあるとのこと。さまざまな色を重ねることで、内側から光を発するかのような色の表情が生まれます。

展示風景より

展示室の最初を飾る『ラ・フォンテーヌ寓話集』はシックなモノトーン調の作品で、シャガール=色彩のイメージが先行していると意外に思えるかもしれません。しかし、初めは多色刷りの銅版画を想定していたという作品を眺めていると、モノクロの画面にもシャガールの色に対する繊細な感覚を読み取れます。

マルク・シャガール《『ラ・フォンテーヌ寓話集』より「ジュノンに不平を言う孔雀」》1952年刊 神奈川県立近代美術館蔵

代表作『ダフニスとクロエ』は2〜3世紀に書かれた古代ギリシアの小説で、挿絵となったシャガールの版画は光溢れるエーゲ海の景色をよく表しています。描いた風景は、実際に妻とギリシャを旅行して取材したもの。北国のロシアで生まれ育ったシャガールの目に、ギリシャの明るい太陽と鮮やかな景色は魅力的に映ったのでしょう。

マルク・シャガール《『ダフニスとクロエ』より「つばめ」》1961年刊 神奈川県立近代美術館蔵

南フランス生まれの作家、ジャン・ポラーンによる自伝的小説『悪童たち』に寄せた版画は、多感な思春期にある主人公を若き日の自分に重ね合わせたと言います。水彩のような色使いが印象的です。

マルク・シャガール《悪童たち》1958年刊 神奈川県立近代美術館蔵

シャガールの詩情豊かな言葉の世界

版画と共にお楽しみいただきたいのが、シャガールの紡いだ言葉の数々です。詩人でもあるシャガールが書き記した、声に出して読みたくなる美しい詩の世界。

『ポエム』は自らが書いた詩に木版画を添えた詩画集です。詩には生まれ故郷の思い出や信仰などが謳われ、ユダヤ人としてのアイデンティティが織り交ぜられています。

マルク・シャガール《『ポエム』より「この日を」》1968年刊 神奈川県立近代美術館蔵

展示室の最後を飾る『サーカス』は、シャガール作品の特徴的な描写でもある浮遊感が存分に活かされています。“サーカス”というモチーフに惹かれていたシャガールが自身の回想を綴った文は、詩でありつつエッセイのように感じられる側面も。

会場の熱狂を表す華やかな赤や黄色の中に、静寂や哀愁を思わせる澱んだ青緑色が入り混じる画面。サーカスという興行が象徴する非日常の夢と、その裏側にある現実や俗っぽく生々しい人間の営み。「この道化たちの舞台は本当に喜劇だろうか?」「演者や動物たちは本当に幸福だろうか?」という彼の問いと動揺が版画にも詩にも表されています。

マルク・シャガール《(右)『サーカス』より「黄色の道化師」》1967年刊 神奈川県立近代美術館蔵

シャガールが版にしるした光の詩、そして愛と彩り。

いわゆる「シャガールとは」を語る回顧展ではなく、彼の繊細な表現に焦点を合わせた今回の「シャガール展」。光そして詩そのものの良さを味わえるシンプルで無駄のない空間に浸り、少し大人びた情趣を楽しみませんか。

美しい版画の数々は、8月27日(日)まで鑑賞できます。

ミュージアムショップで購入できるシャガールのポストカードやグッズ

会期中、7月の毎土曜と8月の毎金・土曜は100円ワークショップ「版にしるしたわたしの詩(うた)」の開催があります。トレーシングペーパーとオイルパステルを使い、モノタイプの版画を作れるアクティビティは工作好きのお子様やその親御様にもぴったりです。

夏のひと時、世田谷美術館で心豊かに過ごしてみてはいかがでしょうか。

展覧会情報
会期2023年7月1日(土)〜2023年8月27日(日)
住所東京都世田谷区砧公園1-2
時間10:00〜18:00(最終入場時間 17:30)
休館日毎週月曜日
観覧料一般:1,200円、65歳以上:1,000円、大高生:800円、中小生:500円、未就学児無料
TEL050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL世田谷美術館|https://www.setagayaartmuseum.or.jp/
交通案内https://www.setagayaartmuseum.or.jp/guide/access/
ご案内

※会期・開館情報は状況により変更になることがあります。

最新情報は、美術館・展覧会のホームページやSNSをご覧ください。

世田谷美術館のアクセスは、東急田園都市線「用賀」駅から徒歩が便利です。
暑さに気を付けつつ、いらか道のお散歩も是非お楽しみください。