【展覧会レポート】世田谷美術館『こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界』

「こぐまちゃーん ほっとけーき つくったわよ」

小さい頃に、家で読んだ絵本。保育園や幼稚園、あるいは小学校で出会った絵本。
皆さんの記憶には、印象に残っている絵本はありますか?

さまざまな絵本がありますが、その中でも大ベストセラー『しろくまちゃんのほっとけーき』を筆頭に、ユーモラスかつ情緒的な絵本を世の中に多く送り出した作家がいます。

絵本作家・わかやまけん(若山憲)。彼の功績を辿る展覧会が、東京都・世田谷世田谷美術館で開催されています。

隣に大きな「砧(きぬた)公園」のある世田谷美術館。7〜8月は夏休みシーズンで、ファミリー層が増えることも予想されますね。
子どもたちに人気の「こぐまちゃん」は、夏の展覧会のテーマにはぴったりです。

7月初旬のとある日、灼熱の太陽をいっぱいに浴びながら内覧会に訪れました。
本記事では、会場の風景写真とともに見どころをご紹介します。

展覧会公式フライヤーは有名なあのシーン!
会場内の写真について

※本展主催者の許可を得て撮影をしています。

『こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界』

1972年に発売されて以来、大ロングセラーとなる『しろくまちゃんのほっとけーき』の著者である、絵本作家・わかやまけんを紹介する初めての展覧会です。

展示されているのは、絵本・雑誌の原画やリトグラフのほか、関連資料など約230点。
豊かな作品世界をお楽しみいただけます。

こんな人におすすめ

・こぐまちゃんシリーズが大好き!かわいいイラストをたくさん見たい!

・わかやまけんさんの絵本作りについて深く知りたい!

・夏休みだし、レジャー気分で展覧会巡りに行きたい!

わかやまけんさんってどんな人?

わかやまけん(若山憲)さんは、1930年に生まれた日本の絵本作家です。

18才でグラフィックデザインの世界へ進み、デザイナーを務めたのち絵本作家に転身しました。

のちに「こぐまちゃんえほん」シリーズを生み出す「こぐま社」創業者の佐藤英和、児童文学者の森比左志、劇作家の和田義臣とも出会い、交流を深めていきます。

やさしいタッチが印象的な絵本を数多く手がけている

展覧会の見どころ

本展では、初期作品である紙芝居や絵本から、『保育の友』の表紙まで多くの作品を展示しています。
年代を追うごとに表現が深みを増しつつも、ピュアな本質は変わらないままであることが感じられるでしょう。

展示室内には壁や天井にも装飾があるので、見渡しながら楽しめます。

また、本展では小さなお子様を連れたご家族も楽しめるように、さまざまな工夫がされています。

  • 授乳やおむつ替えができるベビールームを期間限定で開設
  • 7月2日(土)~7月31日(日)にご来場の方には「こぐまちゃん」のぬり絵をプレゼント
  • 会期中の毎土曜日(8月中は毎金・土曜日)はオリジナルうちわキットを販売

子どもと一緒に美術館を楽しみたい親御さんも、安心できますね。

「こぐまちゃん」シリーズの魅力がたっぷり!

「こぐまちゃん」シリーズを制作するにあたって、わかやま氏は当時3才だった長男をよく観察しながら絵を描いたそうです。
また、“日本の暮らし”を表現したいという意図から、家具や日用品のデザインは昭和の一般家庭をイメージしたものになっています。

『こぐまちゃんのみずあそび』(1971年、こぐま社)より リトグラフ/こぐま社蔵

また、動物の話を書くときは「こぐま社」メンバーの大人4人で動物園に行き、ゴム風船で遊ぶ話を書くときは実際にゴム風船を買って遊び、リアルな体験を追究したのだとか!

こだわりの詰まった「こぐまちゃんえほん」に関する展示は、今回の大きな見どころです。

絵の部分はリトグラフで制作。
どのように刷られていったかがわかります。
アップにするか引きにするか、色はどうするか。
たった1枚の絵を描くだけでも、さまざまな試行錯誤が見てとれます。

「こぐまちゃん」シリーズでは、初版とその後の版で絵が変わっているものがあります。

たとえば、以下の2段掛けの作品を見てみましょう。
上の絵は、ホットケーキが焼けた後に「また油をひいて次のホットケーキを焼けるように」と空っぽのフライパンが描かれています。
しかし、これを見た子どもたちは「ホットケーキがなくなっちゃった!」と感じたのだとか。

こうした読者からの意見を踏まえ、次の刷ではお皿に乗ったホットケーキに絵が変更されています。

読者の意見や時代の変化は、積極的に反映させていました。

絵本作りのおもしろさがわかる展示

わかやま氏は「絵だけで物語を伝える」ことを目指し、絵だけを使った文字のない本を「純絵本」と名づけました。
一方で、「言葉」を扱う劇作家や詩人とも交流を深め、言語が主体となる世界にも関心を持っています。

展示の後半では、ほかにも詩や民話の世界にも触れながら、さらに世界を広げた様子がわかります。

「おばけのどろんどろん」シリーズも人気!
絵本のもととなった「豆本」
本格的な制作を始める前に、まずは豆本を作ったそうです。

会津の郷土玩具「あかべこ」を主人公とした『あかべこのおはなし』は、1980年に刊行された絵本。
現在は、東日本大震災以降に“美しい福島”を多くの人に知ってもらいたいと願う声を受けて、20年ぶりに復刊されている作品でもあります。

展示されているのは、発売当時の原画です。
夕陽が照らす秋の磐梯山を見れば、福島県の美しい自然に想いを馳せられるはず。

タイトルや表紙が決まる前の下絵やスケッチも必見です。

絵本を描くにあたり、わかやま氏はさまざまなあかべこを探し歩いたのだとか。
会場では、京都で出会った旧蔵のあかべこも展示されています。

1982年から1992年までの10年間は、保育雑誌『保育の友』の表紙絵を担当しました。

全30点の原画が並んだ様子はまさに童話の世界に入り込んだように感じられ、その中で1枚1枚を間近でじっくりと楽しめます。

とある絵には、しろくまちゃんみたいな顔のうさぎがいるのでぜひ探してみてください。

壁一面に並ぶ色とりどりの原画

キュートなこぐまちゃんグッズやコラボにもご注目!

ミュージアムショップには、カラフルで愛らしいこぐまちゃんグッズが多数!

また、美術館の地下中庭にある「SeTaBi Café(セタビカフェ)」では、「こぐまちゃんカップ付きジュース」や「パンケーキアイスクリーム添え」を販売しています。

パンケーキは絵本のビジュアルを再現し、3枚重ねの大ボリューム。
詳しくは、カフェの公式サイトもご覧ください。

3種類あるパンの缶詰めはどれもかわいい!

この夏はセタビでこぐまちゃんに会おう!

「こぐまちゃんえほん」を筆頭とした数々の作品で、絵本文化にも大きく貢献したわかやま氏。
絵本がどうやって作られているのか、意外に知らなかったと感じる方も多いかもしれません。そうした方にとっても、見どころの多い展覧会になっています。

会期は9月4日(日)まで。

美術館のエントランス前広場には、こぐまちゃんたちと一緒に写真が撮れる「野外フォトスポット」があります。
夏の思い出作りにいかがでしょうか。

大人の方も、ぜひ童心に帰ってお楽しみください。

こぐまフォトスポット2
展覧会情報
会期2022年7月2日(土)~9月4日(日)
住所東京都世田谷区砧公園1-2
時間10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日毎週月曜日 ※7月18日(月・祝)は開館、翌7月19日(火)は休館
観覧料一般 1200円/65歳以上 1000円/大高生 800円/中小生 500円
※障害者の方は500円。ただし小中高大生の障害者の方は無料。介助者(当該障害者1名につき1名)は無料(予約不要)
※未就学児は無料(予約不要)
※高校生、大学生、専門学校生、65歳以上の方、各種手帳をお持ちの方は、証明できるものをご提示ください
TEL050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL展覧会 公式サイト|https://koguma-wakayama.com/
交通案内https://www.setagayaartmuseum.or.jp/guide/access/
ご案内

※会期・開館情報は状況により変更になることがあります。

最新情報は、美術館のホームページ、SNSをご覧ください。

おまけ

内覧会では、特別に「こぐまちゃん」が展示室に登場してくれました。

世田谷美術館の公式YouTubeチャンネルでは、こぐまちゃんが初めて世田谷美術館に来た一日に密着した動画「こぐまちゃんとびじゅつかん」を公開中!

こちらもぜひご覧ください。