【展覧会レポート】東京ステーションギャラリー『鉄道と美術の150年』

あなたにとって鉄道とは何ですか?

毎日の通勤で使う日常的なもの、果てない旅路へと自分を連れ出してくれるもの、かけがえのない趣味、撮りたくて仕方がないもの……

そんな鉄道が日本で開業してから150年の月日が経ちました。
長い歴史の中で、近代化の奔流とともにあった鉄道。そんな鉄道の150年が奇しくも美術の150年でもあったことをご存じでしょうか。

鉄道と美術の150年を通して当時の社会や政治を見る、斬新な切り口の展覧会が東京都・丸の内東京ステーションギャラリーで開かれています。
東京駅北口にあるこの美術館で開催するにはあまりにお似合いの企画。

その全容を確かめるべく10月の半ば、プレス内覧会へ伺いました。
会場写真を交えながら展示の見どころをご紹介します。

チラシ(歌川広重版)
会場内の写真について

※本展主催者の許可を得て撮影をしています。

『鉄道と美術の150年』の概要

新橋〜横浜間に日本で初めての鉄道が開業してから、2022年で150周年を迎えます

今年この展覧会を開催するために、東京ステーションギャラリーは5年間もの歳月を費やしたといいます。
担当学芸員のみならず、広報など他部署も含めたスタッフ総出での大型企画。

「ステーション、と館名に入っているからには」と気合の入った、渾身の展覧会です。

こんな人におすすめ

・電車が好き!鉄道や機関車などのモチーフを扱う作品が見たい!

・東京ステーションギャラリーの良さが引き立つ展示を見に行きたい!

・日本近代絵画から現代アートまで、見応えたっぷりのモダンな展示を楽しみたい!

鉄道と美術の深い関係

——鉄道と美術は一筋縄ではいかない、ただならぬ関係にある。

——鉄道は美術を触発し、美術は鉄道を挑発する。

『鉄道と美術の150年』キャッチコピーより

鉄道が開業したのは明治5年(1872年)。文明開化の真っ只中、鉄道は欧米から“輸入”されてきた近代化の象徴でした。

そして実は同じ年、それまでの「書画」に代わって「美術」という単語が使われ始めたのです。

偶然同じ年に生まれ、明治から大正・昭和・平成を経て令和の今に至るまで、時代の流れの中でともに在った鉄道と美術。
どちらも翻訳語だったという共通点もあります。

そして鉄道は、多くの絵師や画家たちにとって魅力的なモチーフ
これまでに鉄道を題材とした作品は実に沢山生み出されてきました。

一方で美術は鉄道に対して、時に“挑発的な”視線を投げかけます。
鉄道を舞台にしたパフォーマンスや社会的な問題提起は、ある意味で鉄道を巻き込んだとも言えるもの。

本展ではそんな鉄道と美術を“スリリングな関係性”と評しています。

小林清親《高輪牛町朧月景》1879年、町田市立国際版画美術館 *展示替えあり

展覧会の見どころ

150年という時の流れは壮大なもの。
本展では歌川広重河鍋暁斎といった江戸絵画の名手から、宮島達男Chim↑Pom from Smappa! Groupのような現代アーティスト、デザイナーの日比野克彦まで多種多様な作家のクリエイティブが勢揃いしています。

それらをただ時系列順に並べるのではなく、“150年”という大きな時間の流れが伝わるようにと、展示構成に工夫が凝らされていることが特徴です。

2階展示室には、一見「なぜこれが鉄道と美術(に関係あるの)?」と思うような作品もあると言いますが、これらも理由があって展示されているもの。

展示空間東京駅舎というのも魅力的。重要文化財でもある赤いレンガの壁に掛けられた鉄道の作品は、素晴らしい調和を見せています。

3階展示室は明治・大正までの初期に当たる作品が多い。
2階展示室は写真作品や現代アートが多く、モダンな雰囲気に。

章立てナシ!大ボリュームのコラムを交えて見せる圧巻の“150年”

展覧会では「第1章」「第2章」と章立てされていることが一般的ですが、本展ではあえてそうしなかったと言います。

その理由は、時代の流れで区切りをつけずに、“150年”という時間を丸ごと見せたかったから

鉄道史や美術史という単一的な枠を超えて、「150年を見せたい」というのは企画としてかなり意欲的。

章立てがない代わりに、図録の文章を要約したバナーコラムはなんと12本!

センス溢れるコピーライティングと、ソリッドでグランジ感のあるデザインが目を引くバナーやキャプションにもご注目ください。

河鍋暁斎『地獄極楽めぐり図』より「極楽行きの汽車」1872年、静嘉堂文庫美術館
画像提供:静嘉堂文庫美術館/DNPartcom *展示期間:10/8~11/6
当時の錦絵はニュースを伝える媒体だったため、中には実物を見ずに描いた鉄道もあるのだとか。もしかしてこれも……?
写真下部にあるのは双六(すごろく)。
鉄道のすごろくといえば、80年代から人気のゲームがありますね。
赤松麟作《夜汽車》1901年、東京藝術大学
このように群像劇を思わせる作風は珍しい。
(右)中村宏《ブーツと汽車》1966年、名古屋市美術館
キャプションの見出しでは、「無限」行きの蒸気機関車と表されている。
宮島達男《Study of Counter Train》1994年
デジタル数字が有名な宮島氏の作品にも、電車モチーフがあったとは!
(右)Chim↑Pom(当時)《LEVEL7 feat. 『明日の神話』》2011年
渋谷駅にある岡本太郎の作品にこのベニヤ板を立てかけるパフォーマンスを行った。

普通なら隣り合うことのない作品同士が並んで見せるもの

『鉄道と美術の150年』の世界を表すために集められた作品たちだからこそ、とも言えるでしょう。
通常隣り合って展示されることがおそらくない作品が一緒に並んでいる様子も見受けられます。

たとえば、富山治夫《過密(錦糸町)〈現代語感〉より》は路面電車を待つ人びとの写真。当時の60年代は乗車率300%の、とんでもない通勤地獄だったと言います。

じゃあその労働者はどこから来たの?という問いには大野源二郎《集団就職》がヒントをくれる仕掛け。

隣り合う作品が時代を濃厚に見せることで、見方がガラッと変わるかもしれません。

田中靖望《機関車》1937年(プリント2017年)、名古屋市美術館
今までは「すごいもの」だった機関車がノスタルジーや幻想の対象に移り変わっていく様も本展では見せている。

豪華な図録をぜひ手に入れて!

先述したバナーコラムやキャプションの元になっている図録は、こだわりの詰まった大ボリューム!

かなり厚みがありますが、魅力的なキュレーションを楽しめる面白い読み物に仕上がっています。
ぜひ購入してじっくりとご覧ください。

表紙はツヤツヤと金属のような光沢があり、まるで鉄道車両のような手触り
特別感のある図録です。

鉄道と美術の150年を体感せよ!

鉄道と美術の150年、それは大きな近代化の波と時代のうねり
その中で移り変わってきた日本の社会、政治、戦争、風俗、歴史——どうか後は、ぜひご自身で目撃してください。

かつては国力や近未来を象徴した蒸気機関車も、今やノスタルジーや幻想の象徴に。
ここから200年、250年とさらに進んでいく未来はいかに?

展覧会は1月9日(月・祝)まで。鉄道150年の濃密な歴史を、美術とともに辿りましょう。

会場外で特別に展示されている東京駅の柱材。
長い歴史を感じられます。
展覧会情報
会期2022年10月8日(土)〜2023年1月9日(月)
*会期中一部展示替えがあります
住所東京都千代田区丸の内1-9-1 
時間10:00~18:00(金曜日~20:00)*入館は閉館30分前まで
休館日月曜日(1月2日、1月9日は開館)、12月29日~1月1日
観覧料一般1,400円、高校・大学生1,200円、中学生以下無料
*障がい者手帳等持参の方は100円引き(介添者1名は無料)
TEL03-3212-2485
URL東京ステーションギャラリー|https://www.ejrcf.or.jp/gallery
交通案内JR東京駅 丸の内北口 改札前
ご案内

※会期・開館情報は状況により変更になることがあります。

最新情報は、美術館・展覧会のホームページやSNSをご覧ください。