アーツカウンシル東京が新たに「アートマネジメント人材等海外派遣プログラム」を開始

東京都とアーツカウンシル東京は、2023年度より新たに「アートマネジメント人材等海外派遣プログラム」を開始しました。将来アーティストと社会をつなぐ役割を担う、若手アートマネジメント人材を短期で芸術フェスティバル等に派遣し、国際的な活動の第一歩となるよう、海外の芸術文化関係者のネットワークを作る機会を提供する取り組みです。

2023年度の公募では、3か国に合計10名を派遣。各種プログラムの活動を終えた被派遣者による初の報告会が、2024年2月28日(水)に実施されました。

会場内の写真について

※主催者の許可を得て撮影をしています。

アートマネジメント人材等海外派遣プログラムの背景

「東京文化戦略2030」では、東京が国内外のアートシーンの中心として、集積する芸術文化資源を最大限活用し、世界を魅了する創造性が生み出される国際的なアートハブとして機能していくことを目指しています。

人工知能(AI)やロボットが席巻する時代において、アートを通じた創造力や感受性の育成は重要な役割を担い、そのような社会を築く上でアートマネジメント人材の育成は必須です。彼らが海外の先駆的な作品や創作現場に直に触れることで、国際的な視点に立った創作の機運醸成を図ることを目的としました。

なお、将来的にはこの事業を通じて東京と各派遣先との連携を深め、東京と海外セクターとのネットワーク構築・強化につなげます。

プログラムの採択実績

2023年度は、合計10名が被派遣者に選ばれました。主に舞台芸術分野(演劇、舞踊、音楽等全般)に関わるプロデューサーやディレクター、視覚芸術分野に関わるディレクターやキュレーター等のアートマネジメント人材です。

  • 第1回公募:
    世界最大の舞台芸術の祭典「エディンバラ・フェスティバル」に4名
  • 第2回公募:
    多様な文化と豊かな歴史を持つ古代都市を舞台にした「タイランド・ビエンナーレ(チェンライ)、バンコク」に2名
    世界のエンターテインメントの中心地である「ニューヨーク・ブロードウェイ」に4名

【エディンバラ・フェスティバル】
岡田勇人(おかだ はやと) フリンジ・オーガナイザー
野村善文(のむら よしふみ) 舞台美術等
松波春奈(まつなみ はるな) 公益法人職員 NPO法人職
高本彩恵(たかもと さえ) 制作、アートマネージャー

【タイランド・ビエンナーレ(チェンライ)、バンコク】
丹治夏希(たんじ なつき) プロジェクトコーディネーター、 ディレクター
韓成南(はん そんなん) ディレクター、キュレーター、映像作家、演出家

【ニューヨーク・ブロードウェイ】
目澤芙裕子(めざわ ふゆこ) プロデューサー、マネージャー、制作
遠藤七海(えんどう ななみ) 制作者、アーティスト、ダンサー
髙田郁実(たかだ いくみ) 事業戦略・マーケティング
春日希(かすが まれ) 俳優

プログラムの内容

報告会の様子

本プログラムでは海外に約1週間(※)滞在し、主催者側で設定するBasic Programと被派遣者自身が調整して設定するOriginal Programの2つに取り組みます。

Original Programでは、各個人がそれぞれ興味・関心のある対象を選び、主催者やアドバイザーのサポートの元で、リサーチや視察・関係者へのヒアリングのために交渉・調整を行いました。

東京都とアーツカウンシル東京は、日本と派遣先の往復航空賃や現地宿泊費、日当などを支給し、派遣に関する調整やアドバイスなどの支援を実施しました。

※現地滞在期間は最大7日間程度、移動日を含めて9日間程度

エディンバラ・フェスティバル|イギリス(スコットランド)

エディンバラ・フェスティバルは世界最大級の演劇の祭典で、3週間ほどの期間で1万本近くの公演を実施する巨大イベント。若きクリエイター支援に取り組む野村さんは「都市としての文化事業の発信力やコンテンツの量は、本当に経験したことがないレベルで圧倒された」と話します。

その量はフリンジ・フェスティバルという形式で、参加する側が登録料を支払って自発的に作品を発表することに起因しています。YPAMフリンジの担当として勤務する岡田さんは「本当に自由な作品が集まっていて、かつ自由なだけではなくて、そもそもフリンジがどのような作品を発表する場所かを改めて視察できた」と、自身の仕事に直結する刺激を受けたことを報告。劇団の制作を務める高本さんも「劇場やフェスティバル主催者の、アーティストに対するアプローチやサポートが充実している。色々なビジョンを持った人たちに開かれていることが印象的だった」と話しました。

舞台芸術の支援に携わる松波さんは視察を経て、「今は組織に所属しているので、中間支援組織がどのような形で、どのような考えを持って支援を行うべきかを深く考え直したい」と気づきがあったことを伝えました。

タイランド・ビエンナーレ(チェンライ)、バンコク|タイ

タイランド・ビエンナーレは、政府がタイ各地で開催する現代アートの祭典です。開催地が都度変わることが特徴で、開催3回目を迎えた2023年はタイ北部のチェンライで行われました。

瀬戸内国際芸術祭のコーディネーターを務めていた丹治さんは、ビエンナーレの見学後にバンコクに滞在し、現地の芸術祭の関係者にヒアリングを実施。「タイのキュレーターに連絡したら、面識が全然なかったにもかかわらず時間を割いてくれて、瀬戸芸にも興味を持ってくれた。会社ではなく個人で外部の人にコンタクトする経験があまりなかったので、すごくいい勉強になった」と振り返りました。

映像作家でありディレクターとしても活動する韓成南さんは、バンコクで5名のアーティストやギャラリストと交流。「タイにはアーティストとディレクターの兼業で活躍している方が多く、勇気づけられた」と、良い出会いがあったことを伝えました。

ニューヨーク・ブロードウェイ|アメリカ

世界的な劇場街であるニューヨーク・ブロードウェイには、俳優から舞台作品のプロデューサーやマーケターまで多様な人材が派遣されました。毎日びっしりと詰まったインタビューや観劇のプログラムをこなした4名の被派遣者は、ブロードウェイの体制や業界内の連帯、ブロードウェイミュージカルの作品傾向について情報収集ができたと話します。

日本とアメリカそれぞれの良い点と課題、労働環境や持続可能性への取り組み、チケットサイトの仕組みなど、それぞれに関心のある分野のリサーチを深め、共有するまたとない機会。プロデューサーとして活動する目澤さんは「この度、派遣されたメンバーはポジションも視点も全然違う4人だった。プログラムを通して色々な視点を持ち、チームになることで刺激し合えた」とプログラムの仕組み自体も良かったと振り返りました。

被派遣者の座談会(インタビュー)の様子

座談会では被派遣者10名が質問に答えたり、互いに質問し合ったりして3か国それぞれの体験を報告・共有しました。

今回の派遣で得た体験や経験を踏まえて、制作・ダンサーの遠藤さんは「海外で自分の活動を広げていくことに対して、心理的距離が縮まった。自分の作品やプロジェクトを考えるときに、海外でどう通用するかが視野に加わったなと思う」と実感。また、俳優の春日さんは「帰国してから、興味を持った分野の検定を受けた。ニューヨークがくれたエネルギーみたいなものが、自分の背中を押してくれているように思う」と手応えを感じていました。

劇団四季の事業戦略・マーケティングを担当する髙田さんは、「小さい演劇やミュージカルが成り上がれる環境が、東京にもあったらいいなと思う。今の日本の小劇場でどれだけクオリティの高いものが出来上がっても、最終的に大手の劇場に乗ることはない。その環境を、どうしたら日本で整えられるかを考えていきたい」と話しました。


2023年度が第1回となった、アーツカウンシル東京の「アートマネジメント人材等海外派遣プログラム」。今後の人材育成にも注目です。

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