“The Grate Wave”の呼び名でも知られる、ダイナミックな大波。
富士山のイメージも相まって、海外でも人気の絵がメインビジュアルを飾っています。
葛飾北斎。「世界で最も有名な日本のアーティスト」とも名高い北斎をすみずみまで堪能できる展覧会が、東京都・六本木のサントリー美術館で開催されています。
長く画業を続けた北斎が60〜90歳で描いた作品に焦点を当て、大英博物館で所蔵している作品をお披露目する機会です。
また、大英博物館の北斎コレクションの礎となった、6名の外国人コレクターについても解説しています。
国内でもファンの多い北斎、そのためか、展覧会自体の注目度の高さもうかがえるようです。
この記事では、展示の見どころや楽しみ方についてご紹介します。
『大英博物館 北斎 —国内の肉筆画の名品とともに—』
今回の目玉は「大英博物館の北斎コレクション」と「国内で所蔵している肉筆画」の2本立てです。
大英博物館の持つ北斎作品は、量が多いだけでなく、摺りの良さや揃物(そろいもの)の充実ぶりなど、質の面でも優れています。
そして肉筆画は、版画と違いすべてが1点もののため、とても貴重な品々です。
展示会場では、それらの名品を間近で余すところなく楽しめます。
・《神奈川沖浪裏》をはじめ、葛飾北斎の名品を見たい!
・大英博物館の北斎コレクションがどのように集められたかを知りたい!
・誰もが知っている有名な作品が出ているなら、足を運んでみたい!
音声ガイドを務める田中泯(たなかみん)さんは、映画『HOKUSAI』で晩年の葛飾北斎役を務めた俳優・ダンサーの方です。深みのある渋い響きは、老年の北斎そのものをイメージさせます。
音声ガイドの対象となっている作品は、大英博物館の公式Web解説(English ver.)も閲覧が可能です。
館内で専用QRコードが載ったチラシを配置しているため、読んでみると「この作品は英語でこう言うんだ!」といった、新たな発見があるかもしれません。
葛飾北斎は江戸に生まれ、90歳まで画業を続けた日本の代表的な絵師のひとりです。
19歳で浮世絵師の勝川春章に弟子入りし、30代で独立。やがて役者絵の名手として知られてからは、風景画や静物画などさまざまなジャンルに挑みました。
最も有名な《神奈川沖浪裏》を含む《富嶽三十六景》シリーズは、なんと70歳で制作したもの。
卓越した画力だけでなく、新たな概念や世界観を生み出していく天賦の才にも恵まれた北斎。
第3章のバナーでは、次のような言葉で紹介されています。
(北斎は)独自の様式と独創的な構図によって、ありふれたものを特別なものへと変え、新たな視点から周囲の世界を見て、密接に結びつくことを促しました。
サントリー美術館『大英博物館 北斎 —国内の肉筆画の名品とともに—』
まさに北斎は破格の絵師であり、その凄まじいまでの才能が評価されてきたとわかります。
メインの肉筆画に至るまでは、北斎の浮世絵版画も数多く見せています。
有名な「赤富士」こと《凱風快晴》や、《諸國瀧廻り》・《諸國名橋奇覧》といったシリーズものが豊富に並んだ空間は、私たちの目を楽しませてくれるもの。
中でもプルシアンブルー(ベロ藍)を使った藍摺りは素敵! 《富嶽三十六景》では藍色だけで摺られたものもあれば、他の色も使ってより色彩豊かに仕上げられているものもあります。
藍色×薄ピンクの取り合わせは特に優美です。
北斎の発想は時に奇抜で、一般人の想像をゆうに超えていきます。
たとえば、《百人一首乳母がゑとき》は「百人一首を乳母が解説した」という体のシリーズですが、百人一首の歌に添えて描かれた絵には歌とまったく関係がなさそうに見えるものも……?
とある作品のキャプションには「珍しく歌意に沿った描写である」と解説されていますが、いやいや、歌意に沿ってくれ(笑)
なぜか「絵解き」をまったくしない北斎の、独創性とクセが強すぎる絵解きシリーズは必見です。
#どうしてこうなった
今回の展示でおもしろいのは、大英博物館の北斎コレクションがどのように形成されたかを見せているところです。
作品の蒐集に携わった6人のコレクターを取り上げ、彼らの言葉や関連書籍とともにそれぞれの人物を紹介しています。
その1人、ウィリアム・アンダーソンは「芸術を愛する北斎の勤勉さ」に感動したと言及。日本から遠く離れたイギリスでも北斎が評価され、愛されていたことが伝わります。
「葛飾北斎は素晴らしい」とアピールするだけでなく、「コレクションができるまで」の裏側を見せる。サントリー美術館はそういった、ひねりのある切り口のキュレーションがいつも魅力的だとつくづく感じます。
あらゆるジャンルに取り組んだ北斎が、最も力を入れたのは肉筆画だったと言われています。
1枚1枚を直に描いて仕上げた作品は、驚くほどの技巧に満ちています。
《流水に鴨図》や《鯉亀図》では、生物に対する観察眼の鋭さとともに、ただ写実的に描写するだけではない躍動感の表現も見事です。
とても90歳で描いたとは思えない名作の数々に圧倒されます。
今回は、「アダチ版画」さんの特設ショップがオープンしています。
江戸時代から浮世絵制作の技法を受け継ぎ、現代に蘇った美しい錦絵たち。
浮世絵を飾ってみたい人におすすめです。
ショップでは展覧会オリジナルグッズとして、ポストカードやクリアファイルのほか、大英博物館からの直輸入グッズも仕入れています。
北斎グッズをお土産にできますので、ぜひショップも覗いてみましょう。
葛飾北斎を紹介する王道的な構成でありながら、「大英博物館」や「肉筆画」といったキーワードを織り交ぜた意欲的な展示。作品数も100点を超え、充実した時間を楽しめます。
展覧会は6月12日まで。
素晴らしい作品をぜひご覧ください。
会期 | 2022年4月16日(土)~6月12日(日) ※作品保護のため、会期中展示替を行います。 |
住所 | 〒107-8643 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階 |
時間 | 10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) ※4月28日(木)、5月2日(月)~4日(水・祝)は20時まで開館 |
休館日 | 火曜日 ※5月3日、6月7日は開館 |
観覧料 | 一般|当日 ¥1,700(前売 ¥1,500) 大学・高校生|当日 ¥1,200(前売 ¥1,000) ※中学生以下無料 ※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料 |
TEL | 03-3479-8600 |
URL | サントリー美術館 公式サイト|https://www.suntory.co.jp/sma/ |
交通案内 | 都営地下鉄・東京メトロ「六本木駅」より直結 https://www.suntory.co.jp/sma/map/ |
今回、さつまのお気に入り作品はこちら!
- 《鵙 翠雀 虎耳草 蛇苺》… 赤・青・緑の色鮮やかな画面が目を引く! モチーフも可愛くてお気に入りです。
- 《黄鳥 長春》…うぐいすに梅ではなく薔薇を合わせるところが新鮮。モダンな雰囲気です。
- 《河骨に鵜図》… どことなく退廃的な雰囲気に、黄色い花のアクセントが素敵。