ボールペン1つで、見る人を想像の世界へ引き込む独特な細密画。
緻密で美しい作品を描き続ける、アーティストのRobert Edwin(ロバート エドウィン)さん。
日々の作品制作にいそしみながら、各地のクラフトフェア出展やグッズ販売などの活動にも精力的に取り組まれています。
エドウィンさんの作品の魅力と、そこに込められた思いとは?
11月上旬の小春日和。
エドウィンさんのアトリエがある静岡を訪れ、インタビューをしてみました。
——すごく細かい……! これを全てボールペンで描いているのですか?
はい、ボールペンを主体に作品を制作しています。
独特な細密画で、見る人が想像世界の中に引き込まれていくようにさまざまな仕掛けを施しています。
見ていて飽きないように、そして生活空間に違和感なく溶け込める作品になるように、バランスに気を配りながら描いています。
——こうして見ると、さまざまな作風がありますね。
細密画を主体とする中で、ポップ性の高いものやアート色の強いものなどさまざまな作品があります。
——作品を描く上で、インスピレーションの源泉となっているものはあるのでしょうか?
これと言ったものはあまりないですね。
普段の生活をしている中、たまたま出会って「いいな」と思ったものが自分の記憶に残っていて、いざ描き始めるときにそれらが自然と思い起こされるようなイメージです。
作家活動を初めた頃はそれこそ、美術館や自然などを見るときに「インスピレーションを感じ取りにいく!」といった意気込みがありましたが、今全くないですね。必要としてない、という考えでしょうか。
制作に行き詰まることはもうないのですが、若いときはその不安感もいっぱいあったんです。
——年を経るにつれて、表現も円熟したのですね。
やっぱり年相応じゃないですかね。僕はもうすぐ50歳になるのですが、若いときはどうしたってそうなるはずですよ。
それに表現そのものも、年配の人が若い人と同じことをしても本物じゃなくなっちゃう。
ただ、若い頃にはもう戻れないと思うと寂しい感覚はありますよね。いま活躍している20代くらいの人たちを思うと、やっぱりすごいですよ。
——ちなみに、日本人……ですよね?
はい(笑)よく聞かれますね。
——絵は独学で自分のものにしていったのでしょうか?
そうですね。好きでやってたらこうなっちゃった感じです。
僕は子供の頃にね……丸い円が描きたくて。丸い円が描けなかったことを覚えてます。何をしたいかっていうと、地球を描きたかったんです。地球を何枚も何枚も。幼稚園に入る前だったかな。
ハサミで物作りをするのも好きな子でしたね。
教科書の隅っこに絵を描くのもよくやりました。ただ美術や芸大で芸術を、とはなりませんでしたね。そういう感覚のある親ではなかったので。
——ボールペン画のスタイルを初期からずっと貫かれていますが、この表現に行き着いた経緯を聞かせていただけますか。
僕は過去にミュージシャンをしていて、仕事と音楽の両方をやっていました。けれどもすごく時間がないというか、両立するのは難しいですよね。
けれども音楽や制作活動を辞めたとき、何かつまらないなと思って。そのときに、自分はずっと何かを作っていたい人間なんだなって気づいたんです。そこから画家としてのキャリアをスタートさせました。
もはや「好きだからやる」でもないんですよね。衝動に駆られちゃってるんですよ、ずっと。
そこで、じゃあどうやって画業を他のことと両立させられるか考えたときに、紙とボールペンがあればどこでも描けると思った。そこからですよ。
——制作をする上で、日々どのように過ごされているのか少し教えていただけますか?
いろいろとルールを作ったんです。
制作は朝やる。1日あたり1時間半以内、週休2日制で。だからすごく調子がいいときや時間があるときに、描き続けたくなっても1時間半でやめる。そういうふうに、“続けるにはどうしたらいいか”を考えたルールを敷いて。
あと以前は作品をボツにしたこともあったのですが、それもやめました。
もうボツにするような絵はなしにしよう。絶対に描き終えよう、と思って取り組みます。結局、仕上がった後になって見ると「何でそこが気に入らなかったんだろう?」ってわからなくなるものです。
——細く長く、途絶えないように続けていくことがエドウィンさんのアートの美しいところだなと感じました。
今やもう体に染みちゃってるもんで、毎日「今日もやるか」というルーティンができています。
逆に気分が乗らなくても、必ず1時間半はやる。それでもボールペンを持って描き始めると、意外と乗ってくるもんだから。
——エドウィンさんはどのような思いから作品制作をしているのでしょうか。
僕は、「物事はバランスで成り立っている」と思っています。
感情も全部バランス。「あ、これはバランスでできてるな」といろいろな物事に対して、バランスをすごく意識しながら生活していますね。
たとえば音楽でもメロディーが0秒から3分まであったとして、その間に悲しい感じになったり、楽しい感じになったりといろいろありますよね。
曲の中で不安な気持ちにさせるフレーズが出てくると、「どうやってこの曲は終わるのかな?」と聴き手は不安になる。そのときにスッと安心させるようなメロディーに変えてあげると人はホッとする。
心が動くのが感動だとしたら、楽しい気持ちになることも感動だけど、悲しくなったとしても感動じゃないですか。あとは初めから楽しい気持ちの自分が楽しい曲を聞いても、そんなに感動しないはず。
だから作家やアーティストは、いかにその人の心を乱すか・動かすかが大切だと思っています。心が乱れるなら、それを再び安定に持っていくために感情を動かしていく。要は振り子みたいに行き来させる。
そういう気持ちを想像しながら、白と黒のバランスを追究しています。
——たしかに白と黒は、対照的な色ですよね。
まさにそうですね。陰と陽のような。
あるいは、たとえばちっちゃなくまちゃんを描いたときに、それをいかに目立たせるかを考えると……くまちゃんをいっぱい描いたら目立たないじゃないですか。
だけど白い紙の上にポツンと1匹くまちゃんがいたら目に留まる。それも結局はバランスが為せる技なんです。
——密と空白、という概念もまたバランスを成り立たせるものですよね。
そうですね。僕の絵も、密になっている模様だけをクローズアップして見ると気持ち悪いかもしれない。ただ、そこに空白やポップなものが入るとバランスが取れる。
よりバランスを保つために、対照的なものが引き立て合っています。
鋭い人からは「デザイナーっぽいね」と言われることがあります。バランスを意識しているところがそう思わせるのかもしれませんね。
ただ、バランスを整えるだけでは駄目なんですよ。わざと崩さないといけないこともある。
でも結局は整えちゃうんですよね。バランスが崩れているとモヤモヤしてきちゃう。
その繰り返しです。
——エドウィンさんがプロデュースするブランド「Robert Edwin products」について教えていただけますか?
自身のブランドを立ち上げ、「見るアートから使うアートへ」をテーマに、さまざまなグッズを手作りで制作販売しています。
日本各地のクラフトフェアで絵画の出展販売をするときに、一緒に持って行っていますね。
意外と小さなお子様にも人気があります。
——他に注力されている活動があればぜひ教えてください。
各地ギャラリーでの個展・グループ展や、作品を使ったパッケージデザイン・看板デザイン・映像制作などがあります。海外の企画展にも参加し、アメリカ・ロサンゼルスでも展示しています。
コロナ禍の影響を受けたイベントもありますが、今の活動を続けながら次の一手も考えていきたいですね。
——最後に、今後の制作についての思いを聞かせてください!
誰も真似できないようなアーティストになりたいなと思います。
それから、バランスを追究していく姿勢は変わらないと思います。
こんな時代になっても戦争は終わらないし、悪いやつはずっと悪いやつ。パーフェクトワールドはなかなか来ないんです。けれども、そう思って世の中を見ると結構おもしろくなってくるんですよ。
自分を客観的に見るきっかけにもなる。「何だかすごくいいことがあるから、何か嫌なこと起こるだろうな」とか。
あるいは嫌な思いをしたとき、その場で怒ったり後から愚痴を言ったりせずに我慢すると、バランスが乱れたまんまで終わる。
そうするとね、不思議といいことが起こるんですよ。誰かから嬉しい知らせがあるとか。
そういう目線で見ると世の中は結構おもしろい。
僕の絵はそうした“バランス”への関心に溢れています。
——エドウィンさん、ありがとうございました!
Robert Edwin 公式サイト:https://robertedwin.com/
Robert Edwin products 公式サイト:https://minne.com/@robertedwin
公式Facebook:https://www.facebook.com/robertedwinex/