大正ロマンを象徴する画家・竹久夢二(たけひさゆめじ)。彼の生誕140年と没後90年を記念して、その生涯をたどり、新発見の作品と新しい研究をもとに紹介する展覧会が東京都庭園美術館で始まっています。
このたび発見された大正中期の名画《アマリリス》、初公開となるスケッチ帖や素描など、約180点の作品を夢二郷土美術館コレクションを中心に紹介する貴重な機会。本記事では、展覧会の取材レポートをお届けします。
※主催者の許可を得て撮影をしています。
夢二の貴重な油彩画《アマリリス》に出会う
展示室に足を踏み入れると、まずは幻の名画《アマリリス》と対面します。「夢二式」と称される抒情的な美人画の特徴は変わらないまま、油彩のタッチで描かれていることが新鮮。
大正中期に描かれた本作は、長年行方不明だったもの。近年の調査により発見され、2023年に岡山県・夢二郷土美術館に収蔵されました。夢二の油彩画は現存するだけでも約30点と少なく、《アマリリス》が発見後に公開・展示される本展は、これまであまり紹介されてこなかった油彩画家としての夢二を知ることができます。
大正ロマンを偲ばせる、邸宅式の展示空間を有効活用
東京都庭園美術館の本館は、1933(昭和8)年に朝香宮家の自邸として建設された場所。アンリ・ラパンやルネ・ラリックなどフランスの芸術家たちが手がけたアール・デコ建築は、生活空間の中に施された多彩な装飾が見どころのひとつです。
大客室の空間にマッチする白色の大きな展示ケースなど、それぞれの部屋の用途や雰囲気に合わせた作品のセレクトにもご注目を。大正ロマン的なノスタルジーを感じさせる掛け軸表装も、夢二作品を鑑賞する気分を盛り上げてくれます。
大食堂の《憩い(女)》に描かれたテーブルやぶどう棚は、室内にあるルネ・ラリックがデザインした照明器具《パイナップルとざくろ》や大きなテーブルのイメージと重なります。
薄暗い書庫の奥に飾られた《初恋》は、青いりんごの実やアンニュイな表情からまさに初恋をイメージさせる情緒的な作品。夢二が初めて出品した油彩画でもあります。
同じく油彩画の《女》は濃い緑色が目を惹きつけ、ピンクや淡色など、夢二作品に多く見られる明るい色合いとは異なるイメージに驚きます。夢二の妻・岸たまきの面影を感じるというこの絵画が、殿下居間に飾られているのも趣深い演出です。
また、夢二が活躍した期間は宮家の時代と重なります。夢二と時代の空気を共有し、暮らしの中の美を体現する邸宅空間の中で、夢二の作品世界を見られるまたとない機会。
お妃様の愛らしい姿を想像させる妃殿下寝室、夏場にぴったりの涼やかな北の間など、それぞれの空間に調和する夢二作品の個性を感じられます。
スケッチやデザインから晩年の夢二に迫る
夢二は絵画だけではなく、雑貨や着物のデザイン、おしゃれな本の挿絵や装丁なども多数手がけました。
草花や風景、物語などの身近なモチーフを題材に、明るくやさしい色彩を用いた図案は、ホワイトキューブの新館で見るとまた違った良さを味わえます。日常生活に自然と馴染む数々のアイテムは、今もなお新鮮な印象を感じさせるものです。
没後90年を経た今もなお、多くの人を魅了し続けている夢二。10年後には生誕150年を迎えることから、本展監修を務めた岡部昌幸氏は「10年計画の最初の年。夢二について、今一度振り返る格好のチャンス」と述べました。
世の中の様々な価値観が劇的に変化しつつあった20世紀前半、時代の立役者となった夢二の魅力を、存分にご堪能ください。
会期 | 2024年6月1日(土)~2024年8月25日(日) |
住所 | 〒108-0071 東京都港区白金台5-21-9 東京都庭園美術館(本館+新館) |
時間 | 10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで) |
休館日 | 毎週月曜日、7月16日(火)、8月13日(火) ※ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月・祝)は開館 |
観覧料 | 一般=1,400(1,120)円/大学生(専修・各種専門学校含む)=1,120(890)円 中・高校生=700(560)円/65歳以上=700(560)円 ※( )内は団体料金。団体は20名以上(事前申請が必要) ※ 小学生以下および都内在住在学の中学生は無料 ※ 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその介護者2名は無料 ※ 教育活動として教師が引率する都内の小・中・高校生および教師は無料(事前申請が必要) ※ 第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上の方は無料 ※ 7月10日、24日(フラットデー)は、無料・割引対象者以外は要予約 オンラインによる日時指定制を導入しています。 |
TEL | 050-5541-8600 (ハローダイヤル) |
URL | 東京都庭園美術館|https://www.teien-art-museum.ne.jp/ |
交通案内 | https://www.teien-art-museum.ne.jp/visit/ |