板谷梅樹《三井用水取入所風景》昭和29(1954)年 板谷波山記念館蔵
昭和時代、モダーンなモザイク作品で人々を魅了した板谷梅樹。梅樹が手掛けたエキゾチックなモザイク額、美しい飾筥やペンダントヘッドなどの愛らしい装飾品を紹介する企画「昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界」が、泉屋博古館東京で開催されています。
本記事では開幕前日に行われた内覧会の様子をレポートします。
※主催者の許可を得て撮影をしています。
昭和モダンのアーティスト・板谷梅樹とは
板谷梅樹(いたや・うめき、1907-1963)は近代陶芸の巨匠・板谷波山(いたや・はざん、1872-1963)の息子で、父が砕いた陶片の美しさに魅了され、20代半ばから陶片を活用したモザイク画の制作を志します。
梅樹作品は綿密な作業と時間を要するため、残された作品は決して多くなく、やがてモザイク作家・板谷梅樹の名は忘れられていきました。しかし近年、昭和モダンのアーティストとして、その再評価の機運が高まっています。
完璧主義だったという波山は失敗作を世に残したくない思いからか、いくつもの器を割って陶片にしてしまったというエピソードが残されています。この陶片の形や色彩は梅樹の原風景であり、のちの創作につながったのではないかと想像されるものです。
同様の陶片は2022年に泉屋博古館東京で開催された「特別展 生誕150年記念 板谷波山の陶芸」にも出品され、実はこの展覧会が板谷梅樹を紹介するきっかけになったというのが驚きです。
日常をいろどるモザイクの世界
梅樹の作品はどれも清新な色彩と可憐な意匠にあふれ、その愛らしい昭和モダーンを思われるビジュアルは落ち着いた展示空間によく映えています。
梅樹の代表作といえば旧日本劇場一階玄関ホールの巨大なモザイク壁画(昭和8年作、原画:川島理一郎)で、当時話題となりました。しかし、戦火をくぐり抜けたにもかかわらず、戦後に取り壊されてしまい現存していません。今回出品されている壁画の下絵は、今はなき姿を偲ぶ非常に貴重な作品です。
18歳のときに大学に入学した梅樹は、その後に単身でブラジルに渡ります。梅樹作品のビビッドな色づかいや南米風の色彩感覚を思わせる配色は、このときの渡航経験に影響されているのかもしれません。
また、梅樹はステンドグラス作家の小川三知に習い、ステンドグラスの技術も短期間で習得しました。アール・デコ風の窓は実際に使われていたもので、レトロなデザインに思わず魅了されます。
そして本展で見逃せないのが、父・板谷波山との競演です。梅樹が制作したランプシェードの台座は、おそらく波山の失敗作と思われる器を再利用したもの。現存する作品群の中でも貴重な、親子の美的感覚が組み合わさった一品です。
同時開催「特集展示 住友コレクションの茶道具」
板谷波山のパトロン的存在であり、泉屋博古館東京のコレクションを築いた住友春翠は、茶の湯もたのしみ、近代の数寄者としても知られる文化的造詣の深い人物でした。
展示室4では同時開催の企画で、春翠の美意識の一端を感じ取れる茶道具を紹介しています。
展覧会は9月29日(日)まで開催中です。美術館初の板谷梅樹回顧展で、ノスタルジックな香り漂うモザイクの世界をお楽しみください。
会期 | 2024年8月31日(土)〜2024年9月29日(日) |
住所 | 〒106-0032 東京都港区六本木1丁目5番地1号 |
時間 | 11:00~18:00 ※金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで |
休館日 | 月曜日、9月24日(火) ※9月23日(月・祝休)は開館 |
観覧料 | 一般1,200円(1,000円)、高大生800円(700円)、中学生以下無料 ※オンラインチケット販売あり ※20名様以上の団体は( )内の割引料金 ※障がい者手帳等ご呈示の方はご本人および同伴者1名まで無料 |
TEL | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
URL | 泉屋博古館東京|https://sen-oku.or.jp/tokyo/ |
交通案内 | https://sen-oku.or.jp/tokyo/facility_t/access_t/ |