愛知県・名古屋にある徳川美術館が誇るのは、尾張徳川家ゆかりの名品。そしてこの館は喩えて言うなら、歴史好き、文学好き、刀剣好きが皆楽しめるワンダーランド——
さらにはグルメ好き、グッズ好き、庭園好きの心までも満たす美術館、通称「徳美(とくび)」。この美術館について、開催中の展覧会をレビューしつつ、ミュージアムの空間や見どころについて余すところなくご紹介します。これから行く人が知っておきたいランチ情報や交通アクセス、持っていくといい物などもご参考に。
徳川美術館は、1935年(昭和10年)に開設された美術館です。主な収蔵品は徳川家康の遺品をはじめ、尾張藩歴代当主の遺愛品などであり、その数は10,000件余りにのぼります。
中でも目を見張るのが日本刀の所蔵数。刀(打刀)・鎗・長刀・小刀などさまざまな種類の刀が1,000振りほど収蔵されています。そのボリュームは国内最大級。ほとんどが尾張徳川家からの寄贈によるコレクションです。
歴史ある佇まいの建築は登録有形文化財にも指定され、重厚感が溢れています。
見どころはそれだけには留まりません。国宝である《源氏物語絵巻》や《初音の調度》などの貴重な美術品も多く収蔵しています。日本文学好き、特に中古文学(古典)好きにはたまらない!工芸品ファンも楽しめます。
SNSでは公式Twitter「徳川美術館かろやかツイート」や公式Instagram、公式YouTubeで情報を発信しています。
公式YouTubeチャンネルでは、臨場感のある映像で展示空間の様子がよく分かります。
鉄道の最寄駅はJR中央線の「大曽根」駅です。
駅からの道は日当たりがとても良いので、夏場は日傘や飲み物で熱中症対策を忘れずに。一方、展示室内は涼しいのでさらっと羽織れるストールを持っておくと快適です。
他には名古屋や栄からバスで行けるルートがあり、駐車場があるので車でも来館できます。詳しいアクセス情報はこちら。
黒門から美術館の入り口まで続く堂々とした道、広く開放的な空と適度な静けさ。この時点で素晴らしい。
とくびぐみとは、所蔵されている刀剣のうち「刀剣乱舞ONLINE」でキャラクター化されている6振を表す呼称です。
- 鯰尾藤四郎(なまずおとうしろう)
- 後藤藤四郎(ごとうとうしろう)
- 物吉貞宗(ものよしさだむね)
- 南泉一文字(なんせんいちもんじ)
- 本作長義(ほんさくちょうぎ) ※「刀剣乱舞ONLINE」では山姥切長義(やまんばぎりちょうぎ)
- 五月雨郷(さみだれごう) ※「刀剣乱舞ONLINE」では五月雨江
徳川美術館では、「とくびぐみ」のグッズやコラボフードが年中楽しめます。それぞれ刀剣ごとにテーマカラーや花モチーフ、動物モチーフが定められ、普段使いしやすいデザインやお洒落なビジュアルが人気です。
とくびぐみフェス2023まとめ。有楽町マルイの実録レポート徳川美術館の見どころは何といっても、幅広いジャンルを取り扱う常設展と毎回テーマの異なる企画展です。
さて、ここからが徳川美術館のすごいところ。館内には展示室が9つあり、展示室1から9までを順番に見る構造になっています。今回、特別展の会場は展示室7〜9の3室。そして展示室1〜6はコレクション展。つまり、特別展が見たくて来た人もまずはコレクションを見ていけ(ドヤ)の洗礼を受けるわけです。強気。そういうとこ好き。さすが天下人。
よくある美術館の構造だと、だいたい特別展や企画展とコレクション展では入り口や入場券が分けられているので、なかなか無いパターン。※特別展から見ることもできると言えばできますが、初見では気付きにくいかもしれません。また、館内マップを見る限りでは、展示室1からみるのがおすすめルートのようです。
しかも展示室1つ1つの見応えがしっかりあるので、特別展に辿り着くまでにお腹いっぱいに。所要時間は長めに見積もるのが吉です。
より正確に言えば、第5展示室から通路が分岐している少し変わった造りです。そのまま第6展示室に行くこともできますが、隣接する蓬左文庫展示室の企画展も見られます。大規模な特別展では、本館展示室と蓬左文庫展示室で同じ展覧会をすることもあるので、潤沢なキャパシティと柔軟性の高い空間を存分に活かした展示ができるのは魅力的。
詳しい館内マップはこちら。
展示室を結ぶ通路からは中庭が見えて、風流を味わえます。回廊のような構造はまさに大名のお屋敷やお城のよう。ソフトな居心地の良さがありつつ、徳川家の誇り高い風格を感じました。
2023年6月20日(火)〜9月24日(日)の期間に出ていたのは、そう…
第1展示室のパネル「徳川家康の歩み」には「天正十八年」の文字。《刀 銘 本作長義…(以下58字略)》の最初の印象は、身幅太いゴリゴリの南北朝ヤンキーソード。素晴らしき力強さ。しかも、隣に光忠の太刀が置かれ、「太刀と刀の違い」という丁寧な解説文まで掲示されていたのですが、「太刀よりもデカくない……??」という印象でした。もちろん太刀が皆大きくて太いとも限りませんが、凄い。
単眼鏡でしっかりと銘まで見届けて。これが刀のアイデンティティなのか、と思いを馳せる。いつどこで誰の手で生み出され、いつどこの誰の手を渡り歩いたのか——
そして、「ちょうぎ」ではなく「ながよし」とふりがなが振られていました。
「とくびぐみ」の長義グッズは「HONSAKU CHOGI」表記ですが…美術界隈ではよくあること。公式ホームページの所蔵品紹介でも「ながよし」表記でした。「ちょうぎ」は通称とのことです。
他にも茶道具や屏風絵など、趣ある美術品がそこかしこに。天井が高く堂々とした空間で見るコレクションは、その価値と良さがさらに引き立っていました。
蓬左文庫展示室では『極める!江戸の鑑定』が開催され、絵画・書・刀剣などの鑑定の歴史について紐解かれています。
正直な印象としては、研究系のマニアックな展示。けれども、それでいて「鑑賞者の心に響くことに絵画の優劣の重点が置かれていた」と初手からひっくり返すような(鑑定ってそんなに感覚的でいいの!?)解説文を置いていたり、分類や定義の難しさに頭を抱える鑑定者たちの記録を見せたりと、ほんのちょっと親しみやすく感じられる部分を意図的に見せていたように感じます。
物の価値とは何か?を自分なりに考える良いきっかけかもしれません。「作品が贋作となるかどうかは悪意の有無が大きく左右する」というちょっとしんどい文言もありました……
そして、とくびぐみの1振でもある《刀 無銘 郷義弘 名物 五月雨郷》がここで見られます。命名のエピソードも含めて美しい。
なお、この展示を見終えて第6展示室に向かい、特別展の会場へ入る前に小さなショップがあります。ものすごくわかりやすいのに書店には置いていない貴重な『源氏物語』の解説本や、名刀の鍔をモチーフにしたグッズなど心躍るアイテムがわんさか並んでいたので必見です。クレジットカードや電子マネー、コード決済も利用可能です。
今期の特別展は、武家社会に生きた人々の装いに注目し、伝統的な装束から普段使いのカジュアルな羽織まで幅広く見せる展覧会です。
とにかく空間とディスプレイが良い。着物がわざわざ畳まれて箱に入っていたり、靴が置き台の上にあったりと、当時使われていた様子をイメージできるような展示の見せ方が素敵。ファッションやデザインが好きな人にもおすすめです。
展示室7〜9は開館当時の風情を残した空間で、歴史を感じられる内装にも注目です。
徳川美術館に来たら忘れずに立ち寄りたい、コーヒーラウンジ(喫茶室)にも訪れました。コーヒーと言いつつ抹茶もジュースも何でもある、美味しいスイーツやサンドイッチも楽しめる素敵なミュージアムカフェです。スタッフさんの温かな雰囲気は公式Twitter「とくびきっさ部」でも垣間見られます。
ドリンクはメニューの「お飲み物」ページにある全てをセットにできます。それとは別にお抹茶のセットにすることも可能です。注文して少々経つと、カップケーキとお抹茶が折り紙風ペーパーと刀菓子切り付きで運ばれてきました。折り紙は持ち帰り可能です(菓子切りは不可)。
結論から言うと、意外と切りにくい……
ある程度サクッと切れたら、後はスプーンで食べると綺麗にいただけます。菓子切りの出番短し……
しっかりした生地のカップケーキは食べ応えの満足度高め。ビターなカカオニブ、ドライフルーツの酸味や華やかな甘みがアクセントになっています。さすが本歌。いろいろな味わいや食感で楽しませてくれるノブレス・オブリージュ、もてあた100%に頭が下がります。エルダーフラワーはあまりわからなかった……でも美味しかったです!
「刀剣乱舞ONLINE」のキャラクターとしての山姥切長義と、実物の刀である本作長義、両方の特徴や良さを上手く取り入れる徳美さんのセンスが素晴らしい。もちろん長義に限らず、6振とも大切にされていることがとても伝わります。
長義のカップケーキを作ってくださっているのは名古屋市のパティスリー ココフォルメさん。他にも、コーヒーラウンジでは「大黒屋本店」「花桔梗」さんなど名古屋の和菓子屋さんのスイーツが食べられます。
徳美を訪れたらミュージアムショップも必見。図録やポストカードはもちろん、徳川家関連グッズ、国宝をモチーフとした華麗な小物、お土産にぴったりのお菓子も沢山あります。中でも『源氏物語』をモチーフにしたお香や文具は雅で素敵。ちょっとした贈り物にもできそうです。「徳川美術館×刀剣乱舞-ONLINE-コラボレーショングッズ」やとくびぐみグッズも豊富にあります。
オンラインショップも展開しているので、遠方にお住まいの人もお買い物をお楽しみいただけます。
美術館に隣接している蓬左文庫(ほうさぶんこ)では、尾張徳川家の旧蔵書を中心に和漢の優れた古典籍を所蔵しています。展示の部分でも触れたように、蓬左文庫の一部は本館の展示室とつながっています。
徳川美術館の展示と一緒に楽しみたいのが、かつて尾張徳川家の敷地だった日本庭園「徳川園」です。徳川美術館の展覧会チケットとのセット券も販売しています。もちろん、先に展覧会チケットだけを買っていても受付で提示すれば割引に。
菖蒲田の花菖蒲や牡丹園など、季節によって美しい花々も楽しめます。
徳川園には飲食できるお店が3つあります。
- ガーデンレストラン徳川園
- 宝善亭
- 蘇山荘
「ガーデンレストラン徳川園」は「龍仙湖」のほとりにあるレストラン。地元の食材を使ったフランス料理とワインを楽しめます。併設する「ガーデンホール」は披露宴や立食パーティーに御誂え向きの会場です。
「宝善亭」は本格的な日本料理を味わえるお店。懐石料理やお寿司など、食と文化を楽しめます。「蘇山荘」は汎太平洋博覧会(昭和12年)の迎賓館を移築した、歴史ある建築が魅力的な甘味処です。”地産地消”の和カフェで、お茶と和菓子をいただけます。
※蘇山荘は5月9日(月)~6月30日(木)の期間リニューアルの工事を行うため休業。リニューアルオープンは7月1日(金)を予定。
園内はあちこちに瀧や湖があって、見た目や音が涼やか。茶室「瑞龍院」の風鈴が時折風に揺れ、落ち着いた雰囲気の中でほっと一息つけます。
庭園入り口にある「ショップ葵」では徳川家や徳川園ゆかりのグッズ、地元のオリジナル和菓子や伝統工芸品などを販売しています。
チケットは事前にオンライン購入をするか、現地で買いましょう。徳川美術館の入館は展覧会チケットが必須です。ミュージアムショップや喫茶室もチケットがないと入れません。
徳川美術館に沢山通いたい人は、会員制度のご利用を。徳川美術館メンバーシップ「個人会員」は3つのプランが用意されています。
歴史の流れに思い馳せ、将軍家の力強さに圧倒され、「武士の魂」と尊ばれた刀剣を愛でる。そして絵巻物を紐解けば、奥ゆかしい古典の世界。スイーツに舌鼓、庭園の緑に心癒され、帰る頃にはきっと名残惜しい。それが徳川美術館の魅力。
2023年はNHK大河ドラマ『どうする家康』の展示にも期待。名古屋に熱い夏がやってきます。
会期 | 特別展 よそおいの美学/企画展 極める!江戸の鑑定 2023年6月3日 (土) ~ 2023年7月17日 (月) |
住所 | 〒461-0023 名古屋市東区徳川町1017 |
時間 | 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで) |
休館日 | 月曜日 ※ただし7月17日(月・祝)は開館 |
観覧料 | 一般 1,600円・高大生 800円・小中生 500円 (企画展「極める!江戸の鑑定」展と共通) ※20名様以上の団体は一般200円、その他100円割引 ※毎週土曜日は小・中・高生入館無料 |
TEL | 052-935-6262 |
URL | 徳川美術館|https://www.tokugawa-art-museum.jp/ |
交通案内 | https://www.tokugawa-art-museum.jp/usage/getting-here/ |
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