毎年夏の風物詩ともいえる、東京都・目黒のホテル雅叙園東京で行われる企画展。東京都指定有形文化財「百段階段」で日本文化に触れながら、「和のあかり」の様々な展示を楽しめます。今年2024年は、妖しく美しいおとぎばなしをテーマに7月5日(金)から開催中です。
本記事では、7月4日(木)の先行内覧会の様子をレポートします。
※主催者の許可を得て撮影をしています。
旅亭「雅楼」へ、ようこそ。
エレベーターで展示フロアに到着すると、伝統工芸で彩られたエントランスホールが見えてきます。ここは1935(昭和10)年開業の旅亭「雅楼」(りょてい みやびろう)——という設定です。
暖簾をくぐって亭内へ。いくつもの小田原風鈴が揺れる、涼やかで少し妖しい世界を予感させる音色の中、玄関で履き物を脱いで上がります。周囲にいるのは、造形作家の小澤康麿氏が制作した猫たち。伝統的な藍染め技術「籠染め」に使われる型を内照式オブジェにした、籠染灯籠のあかりが辺りを照らします。
この先は99段の長い階段廊下をわたりながら、「おとぎばなし」をテーマに様々な物語を表現する7部屋を巡ります。歴史ある木造建築の質感に触れ、ふわりと香るオリジナルアロマ「夏、薫ル」が誘う妖美の世界へ。それぞれ趣向の異なる各部屋は、天井や欄間に当時屈指の著名な画家たちが創り上げた美の世界が描かれています。それらと展示作品がどのようにマッチしているかも、見どころのひとつです。
初めに訪れるのは十畝の間。竹取物語をモチーフとした、美しい竹灯籠が並びます。それぞれの竹に彫刻された模様は、「かぐや姫が月に帰っていく梯子をイメージした」とのこと。月あかりに照らされる姿に神々しさも感じられます。
続く漁樵の間では、「陰陽師として知られる安倍晴明の母は白狐だった」という葛の葉伝説の物語を表しています。子を思う母の悲哀と切なさをイメージした、音楽家・ヨダタケシ氏のオリジナルサウンドトラックが情趣豊かに響き渡ります。「映画音楽のような、あるいはプロモーションビデオのようなコンセプトで作曲した」というBGMは全8曲、エリアごとに異なるのもこだわりのひとつです。
松竹衣裳株式会社や歌舞伎座舞台株式会社が協力した、舞台装置が彩る空間は7つのエリアの中でもっとも演劇的な要素を感じられます。
その先は、「鯉の滝登り〜登龍門伝説〜」をエリアテーマとするダイナミックな空間に、一葉式いけ花の百合の香りが漂う草丘の間。そして、おとぎばなしのいきものたちを表現する静水の間と続きます。
毎年恒例で展示されている金魚ちょうちんも、廊下の間の小部屋で見られます。
文化財「百段階段」の最上部、物語はクライマックスへ。
楽しく明るいファンタジーの世界が広がる静水の間と対照的に、星光の間はどこか仄暗い妖しさを湛えています。鬼、河童、天狗、モノノ怪など、異界のものたちが集合する異空間。「おとぎばなし」では悪役として描かれることも多い、どこか不気味なキャラクターたちの眼差しに、ひんやりとした空気の中で背筋がふと寒くなるような感覚を覚えます。
美人画の大家・鏑木清方が造った落ち着いた静かな茶室風の室、清方の間のエリアテーマは「見るなの花座敷〜鶯長者〜」です。見るな、と言われると見たくなってしまうのが人間。おとぎばなしの中でもこのような応酬と悲劇的な結末はよく見られます。
部屋のすべての展示作品に3面の黒い囲いがあり、回り込まないと見ることができません。まさに、「見るな」と言われているものを覗き込む体験。ここに集まった作品は多彩で、鶯長者の物語を表現する希莉子あかり(きりこあかり)をはじめ、扇子折鶴の立体切り絵、創作水引、つまみ細工、美しいガラス造形作品など、様々な日本の伝統と文化を楽しめます。
そして頂上の間、青白く幻想的な世界は、「天女の羽衣」の物語を表しています。白い紙で制作した塔のようなあかりは、男が天の世界に戻った天女に会いに行くために作った植物をイメージ。中央の太い1本の周りにあるものは失敗作です。「あまり照明家が使わないブルーグレーの光の中で、悲しくも、ヒーリングのように癒される時間を過ごしていただけたら」と照明作家の弦間康仁氏は話します。天女を迎えに行こうとしたが天にはたどり着けず、男は天女に会えなかった、というのがおとぎばなしの結末です。
幕を閉じる「おとぎばなし」の世界を見届けて、文化財「百段階段」を降りていく私たち。夏らしいしっとりとした情緒のある切なさが、余韻となって残ります。
和のあかりが彩る、妖美なおとぎばなしを体感しよう
「今までやっていなかったことをやろうという発想で、まず電気を全部消して、そこにあかりを灯したり、何か物を照らしたりという試みを2015年から始めた。文化財「百段階段」のいつもとは違う表情をお楽しみいただきたい」という毎年夏の人気催事。2024年は今までにない「妖美なおとぎばなし」をストーリーテーマに、不思議な世界を巡るひと夏の体験を9月23日(月)まで楽しめます。
また、ショップでは展示作品と同じ美術・工芸品を購入できます。近隣にある東京都庭園美術館とは提携割引も実施中です。詳細は公式サイトをご参照ください。
会期 | 2024年7月5日(金)~2024年9月23日(月・休) |
住所 | 〒153-0064 東京都目黒区下目黒1-8-1 ホテル雅叙園東京 |
時間 | 11:00~18:00(最終入館 17:30) ※8月17日(土)は17:00まで(最終入館 16:30) |
休館日 | 会期中無休 |
観覧料 | 一般 ¥1,600、大学生・高校生 ¥1,000、中学生・小学生 ¥800 ※未就学児無料、要学生証呈示 ※上記の他にオンライン限定チケットもございます。https://www.e-tix.jp/100event/akari.html |
TEL | 03-3491-4111(代表) |
URL | https://www.hotelgajoen-tokyo.com/100event/wanoakari2024 |
交通案内 | 目黒駅(JR山手線西口、東急目黒線、地下鉄南北線・三田線)より徒歩3分 |