「奈良」といえば——大仏、お寺、鹿などをイメージする人が多いでしょうか。1000年以上前、奈良時代に都があったこの地は、国内の観光スポットの中でもとりわけ趣深い場所です。
その奈良県で「古都奈良の文化財」世界遺産登録25周年記念事業として、2023年秋口〜2024年来春にかけての約半年間、その魅力を国内外に発信する取り組みが行われます。
2023年の夏の終わり、記者発表会を取材しました。
キャッチコピーは“Old History, New Discovery”
旅を通じて、古き歴史の中に新たな発見を。
文化は伝えられてこそ。今こそ奈良を訪れて、古都の歴史を体感してみませんか。
「古都奈良の文化財」とは、平成10年(1998年)12月に世界遺産登録された以下8つの資産を指す言葉です。
- 東大寺
- 興福寺
- 春日大社
- 元興寺
- 薬師寺
- 唐招提寺
- 平城宮跡
- 春日山原始林
かつて世界遺産に登録される建造物は主に石造建築でしたが、奈良の木造建築の寺社が評価されたことで、石造りに限らない多様な文化遺産の保護につながりました。
この世界遺産登録に関しては「奈良ドキュメント(奈良文書)」に詳しい情報が記載されています。
参照:奈良市ホームページ「世界遺産と奈良文書」
「奈良の大仏さま」といえば、この東大寺にある国宝の盧舎那仏坐像(るしゃなぶつざぞう)のこと。
聖武天皇の発願により751年に大仏殿が完成し、1709年に再建された現在のものも、世界最大規模の木造建造物として威容を誇ります。
古都奈良のシンボルとも言える五重塔がこのお寺にあります。
平安時代以降に度々火災に見舞われましたが、藤原摂関家の権力を背景に再建されてきました。
奈良の鹿は「春日の神の使い」と言われ、古くから春日大社近くで繁殖していたそうです。
春日大社のある山は神様のものとして信仰されたことから、神社は山を削ることなく巧みに作られています。
参道の燈籠が有名で、おすすめは近くに宿泊して早朝にこの道を歩くこと。「そのまま1300年前の時間」を体感できる崇高な場所です。
6世紀末に蘇我馬子が創建した飛鳥寺を、平城京に移して創建したのがこのお寺です。
かつては現存しないと言われていましたが、調査が進み全体像が分かったことで評価された貴重な文化財です。
日本で最も美しい塔として知られる三重塔があるお寺です。各重に裳階(もこし)というひさしがつく独特の形式が特徴となっています。
680年に天武天皇が藤原京で創建し、平城京遷都にともなって現在地に造営されました。
唐から来朝した僧・鑑真和上が、戒律を学ぶための寺院として759年に創建したお寺です。
金堂と講堂を同じ画角に含めた景色は「1200年前と同じ風景になる」とのこと。
平城京の中央北端に造営された宮城で、周辺は国営平城宮跡歴史公園として自由に散策や憩いを楽しめる場となっています。
赤と白のコントラストが美しく、見応えのある建造物です。
春日大社の東側にある春日山の原始林で、841年に狩猟と伐採が禁止されて以来、聖域として保護されてきました。
奈良市という県の中心的な町の近くに原始林があるのは珍しく、野生の動物と人間が共生している都市は世界でも唯一とのこと。海外から注目されることもあるそうです。
現在は「春日山原始林アートプロジェクト」など森を守る保全活動も行われています。
「古都奈良の文化財」25周年を記念し、史上初の試みとして「六社寺共通拝観券」が発売されます。
1社寺につき1回の利用で2024年3月末まで使えるチケットで、参拝すると拝観御礼品や期間限定朱印を授与していただけます。購入は奈良市内の観光案内所をはじめ、東京都・新橋の「奈良まほろば館」でも可能です。
また、秋には夜間特別参拝「秋夜(しゅうや)の奈良旅」も楽しめます。6社寺が一斉に行うのは今回が初で、11月の毎週金・土曜日に開催されるイベントです。燈籠のライトアップとともに、美しい夕景や夜景を堪能できます。
寺社を一つひとつじっくり見て、ゆったりと古都の旅時間を過ごすには1泊以上がおすすめ。拝観はもちろん、写経や写仏などに挑戦してみるのもいいかもしれません。
東大寺・興福寺・春日大社・元興寺は奈良駅の東側に、薬師寺・唐招提寺は西側にあるので、同じエリアの寺社から回ると効率的です。
食べ物やお土産は旅の醍醐味。奈良には美味しい食材やお酒など魅力的なグルメが沢山あります。お土産には伝統ある工芸品もおすすめ。
そして、自然豊かであることも古都奈良の素晴らしさのひとつです。
伝統ある奈良では、風味豊かな「やまと茶」や和菓子が有名です。実は饅頭やかき氷の発祥の地でもあるのだとか。
米粉の皮にこし餡を包み、油でカラッと揚げた「ぶと饅頭」は甘いものが好きな人におすすめ。フルーツも有名で、ブランド苺「古都華(ことか)」や柿などが特産品です。
また、奈良は清酒発祥の地。県内の各酒蔵が毎年冬に販売している「奈良のふゆ酒」は、純米大吟醸のそれぞれ異なる味わいを楽しめます。
柿や苺のサイダーで割った日本酒のハイボール「奈良しゅわボール」は日本酒に慣れていない人でも飲みやすいドリンクで、奈良市内のホテルやレストラン、バーで提供されます。
原始林をはじめ、自然豊かな奈良では四季折々の素晴らしい風景が見られます。25周年事業が行われる秋口〜春先のシーズンは、紅葉・椿・山茶花・梅などが見頃を迎える時期。
寺社とともに庭園巡りをするのも風情があり、心癒されるものです。
アートが好きな人は、現地の美術館に足を運ぶのも旅の楽しみ方のひとつ。奈良国立博物館や奈良県立美術館では、仏教美術をはじめとした国宝や重要文化財、日本美術の名品が数多く見られます。
他には、美人画の名手として知られる上村松園らの作品が見られる松柏美術館、茶室を備えた日本画展示室のある中野美術館、美しい自然園に囲まれる大和文華館なども素敵なミュージアムです。
奈良の宝物といえば正倉院も欠かせません。25周年事業の期間中は、2023年10月28日(土)から2023年11月13日(月)まで、奈良国立博物館で『第75回正倉院展』が開催されます。
【展覧会レポート】サントリー美術館『御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 —再現模造にみる天平の技—』工芸品は奈良一刀彫や赤膚焼などが有名です。日常で使いたい、お気に入りの器を是非探してみては。
古都奈良の観光をするには、まず「奈良」駅へ。関東からは新幹線で「京都」駅まで進み、在来線で奈良を目指します。JRも利用できますが、近鉄のほうが短時間で行ける場合もあるのだとか。
初めに奈良駅の西側から回る旅程であれば、「西ノ京」駅を目指すのも一手です。
奈良駅からは奈良交通1日バスを使うと6寺社の周遊がしやすくて便利です。もちろん歩きながら、「ならまち」「きたまち」の歴史探訪をしたり、町の雑貨屋さんやカフェ巡りをしたりするのも良いでしょう。
心静かに過ごせるパワースポット、歴史ある古都の香りが魅力的な奈良。
しかしながら、特に関東では「小学校の修学旅行以来、行ったことがない」という人も多いのではないでしょうか。大人になって訪れれば、新たな発見——New Discoveryに出会えるのかも。
壮大な寺社の空気と自然のエネルギーに身を委ねたら、「古の人々がなぜここに京を作ったのか」と遥か昔に思い馳せる自分がいるかもしれません。
忙しい日々を忘れるリセット旅に、あるいは友人と街歩きや美酒を楽しむ旅に。奈良の世界遺産巡りはいかがですか。